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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第3話 魔法使いの挑戦(前)-4

 あれから3日後の昼間、酒場に再びパララさんは姿を見せた。




 しかし、その表情は暗く、隣りには見慣れない商人風で恰幅のいい男が立っている。ラナさんはその男と言葉を交わすと、深々と頭を下げた。その後、私のところにきてこう言った。




「お買い物に行ってきてもらってもいいですか?」




 この場を外してほしいのだと察した。外に出て手渡されたメモを見てみると、特に急ぎではなさそうな日用品が数点書いてあった。




 ついでに入口の扉に「close」の札を出しておいてほしい、とも頼まれた。かなり込み入った話をするのだろうか。あまり早くに戻って、話の途中でも気まずくなってしまうので、少し時間をつぶしながら買いものをすると決めた。





 歩きながらパララさんと一緒に来ていた男について考える。




 先日のパララさんが受けた仕事の依頼主、またはその関係者と考えるのが妥当か。彼女の表情とその後のラナさんの対応から、仕事でなにか大きな失敗をしてしまったのだろうか。場の雰囲気からして、どう考えても前向きな想像はできない。




 細かい事情は後から聞いてみるとして、なにか苦情を言われているのならパララさんもラナさんも揃って心配だ。




 あれこれ考えていると、いつの間にか道具屋の前に来ていた。時間をつぶすといっても、その宛がないとむずかしいものだ。




 店の中を覗くと、以前の仕事で知り合ったオット氏の姿が見えた。私に気付いたようで軽く会釈をしてこちらにやってくる。




「あぁ、スガワラさんじゃないですか。こんにちは!」




「こんにちは、ちょっとお使いを頼まれたんだけどお願いしていいかな?」




 私はラナさんからもらったメモをそのまま彼に手渡した。




「ふむふむ……、日用品関係ですね。今揃えますのでその辺で座って待っててください」




 オット氏は、店の壁際に無造作に置かれた椅子を指差すと、メモを持って店の奥へと消えていった。以前、仕事の依頼を受けた時よりもずっと快活な雰囲気で、話し方も明瞭としている。あの時は薬草の山に頭を抱え、暗い性格に思えたが、本来は明るい人なのだろう。




 彼に限らず、酒場や個人的な仕事関係のおかげで街中に顔見知りが増えている。まだまだわからないことも多いこの世界で、こうした人間関係は本当に助かるとしみじみ思った。物思いにふけっているとオット氏が戻ってきて、日用品を袋に入れて渡してくれた。




「多分、これで揃ってると思いますけど……。念のため確認しておいてくださいね?」




「ありがとう。あれから道具屋の仕事は順調ですか?」




「おかげ様で。相変わらずミスはありますけど、あの一件以来注意深くなりましたよ」




「はは、それはよかった。また私で手伝えることがあれば相談しに来てください」




「はい、よろしくお願いします。なにか必要なものがあったらこっちの道具屋もよろしくお願いしますね!」




「えぇ、もちろんです。また寄らせてもらいます」




 彼にお代を渡して道具屋を後にする。あまりにも迅速に要件が済んでしまったので、近くの公園で少し休憩してから酒場に戻ることにした。道具屋と酒場を結ぶ道の途中にちょっとした公園がある。




 大きな噴水を眺められるベンチが空いていたので、そこへ座り一息ついた。暖かい日差しが心地いいが、時折大きめの雲が日を隠していた。念のため、オット氏が準備してくれた日用品の袋を見て中身を確認してみる。




 すると、日が陰ったのか急に視界が暗くなった。私の前に誰か立ったのだと気付き、顔を上げると、衛兵の服を着た男が2人前にいた。




 この「衛兵」は元々の世界でいうところの「警察官」とほぼ同じ意味である。




 この世界にきていろいろな情報を集めているうちにわかったことだ。これはつまりあれか……、いわゆる「職質」を受けようとしているのだろうか?

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