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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第3話 魔法使いの挑戦(前)-3

「わ…わっわ、私…人と話すのが苦手なんです……。ギルドからの推薦はあったのですが、面談の時にうまく話せなくて断れてしまいました……」




 ラナさんは紅茶を軽く啜ってひとつ息を吐いた。




「そうですか。立ち入ったこと聞いてごめんなさい」




 こう言って軽く頭を下げていた。




「い…いっい、いいえ! いいんです。その…なんていうか、ラナさんは初対面なのにちょっと安心できるというか……、まだお話ができてる方なんです」




「あら、そうなんですか? それはうれしいですね」




 いつも通り、口をUの字に曲げてにこりと笑っている。




「しっ…し、知らない人と話すのがとても苦手で、お仕事もなかなかもらえないんです。それでいろいろとまわっているうちに、単独でのお仕事ならここがいいと紹介してもらいました」




「そうですね、ボクのとこにまわってくる依頼はひとりか少人数で受け持つ仕事ばかりですから」




 ラナさんは人指し指を立てて唇に押し当てながら仕事の依頼書をめくっている。私は食器洗いと掃除をしながら2人の会話を聞いていた。




「これなんかどうでしょうか? 飛び入りで入った仕事ですので明日からになりますがーー」




「どっ、どどんな内容のお仕事でしょうか?」




「魔鉱石の運搬を護衛する仕事ですね。お隣の国までの往復ですから1~2日の仕事です。ルートも比較的安全で、過去にまもの関係に襲われた話も聞かない道になっています。護衛自体は3人以上の募集となっておりますが……、欠員が出たようで今足りていないようです」




「さっ、3人以上……ということは、きっとその…協力して護衛するような感じですよね?」




 少女の顔がみるみるうちに不安げなものに変わっていく。ここまでわかりやすく表情に出る人も珍しい。




「うーん……、たしかに少人数ではありますが、連携して仕事することになるでしょう。ですが、フリーで過去の実績がまだない以上、単独での仕事は紹介が少し難しいですね」




「うぅ…やっぱりそうですよね、他のとこでもそう言われました」




「危険性は少ないですし、幸い出発の場所はここから近いところです。お給金も悪くないので、よい仕事かと思いますが?」





「わわっわかしました! そのお仕事お願いします!!」





 私が少しびっくりするくらい急に大声でパララさんは返事をした。そして少し嚙んだようでもある。不安そうではあるが、選り好みしている余裕もないのかもしれない。




「わかりました。では、ここにお名前を書いてください」




 パララさんが書面にサインをした後、ラナさんは仕事の依頼書にハンコを押して控えを彼女に手渡した。彼女が持っている書類は淡く発光している。




 魔法のかかった依頼書、見た目は私がいた世界で一般的に使われていた領収書などと同じ類のものだ。数枚がセットになっており、記載をすると重なっている下の紙に文字が写る仕組みだ。




 だが、ここから魔法の力によって、書面の一部に決まったハンコを押すとバラバラになっているすべてにハンコが押され、それを示すように紙が淡く発光するようだ。




 恐らく依頼主も紙の控えを持っており、この光とハンコによって仕事が引き受けられたとわかるのだろう。簡易版の電子メールのようなことが魔法によってできているのだ。


 依頼書の控えを手にするとパララさんは何度もラナさんにお辞儀をしてから酒場を後にした。





「可愛らしい方でしたが……、ちょっぴり心配ですね」





 私に問いかけたのか独り言なのか、ラナさんは酒場の扉を見ながらそう呟いた。パララさんの去った後の酒場はいつにもまして静かに感じられた。

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