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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第3話 魔法使いの挑戦(前)-2

 この酒場では仕事の斡旋をおこなっている。フリーの冒険家がこうして時々仕事を求めてやってくるのだ。私はそこまで詳しくないが、まもの討伐や護衛・警備の仕事など……、内容は様々だが、比較的一人から少人数でできる仕事で、短期間で終わるものが多いらしい。


 人手が必要な仕事は、大きなギルドなどにまわっていくと以前ラナさんが教えてくれた。




 カップを2人分準備して紅茶を淹れ、カウンターに置いた。ラナさんは、ありがとう、と言って早速一口飲んでいた。




「まずはお名前を伺ってよろしいでしょうか? ボクのことはラナと呼んでください。よろしくお願いしますね?」




「はっは…はい! よろしくお願いします! 私はパララと言います!」




「えぇ、よろしくお願いしますね、パララさん。では……早速ですが、どういったお仕事を探してまおられますか?」




「えっと、あの…経験の少ない魔法使いがひとりでも任せてもらえるようなお仕事はありますか?」




 あの帽子が物語るようにやはりこの少女、パララさんは魔法使いのようだ。





 この世界にきて、私が元いた世界ともっとも違いを感じたのがこの「魔法」の存在である。こちらの世界には火・水・雷・風・土に精霊が宿っており、一部の人たちはこの精霊とコンタクトがとれるという。それがいわゆる「魔法使い」である。




 精霊は人間がもっている精神エネルギーを欲する。魔法使いは呪文や儀式、触媒となる道具など様々なものを使って精霊のもつ超常的な力を借り、代わりに自身のもつ精神エネルギーを精霊に与えるのだ。


 これらの知識は魔法についてまったく無知だった私にラナさんがかいつまんで教えてくれた。




 人の精神エネルギーと精霊の力を交換する契約、と思えばわりとすんなりと理解できた。




 他にも「魔鉱石」といって精霊の力を一定量閉じ込めた「石」も存在する。街で走っている路面電車も実は電気ではなく、その魔鉱石の力で動いていると聞いた。冒険家が遺跡発掘にいく話をよく耳にするが、そのほとんどの目的は、この魔鉱石の発掘らしい。




 武器や装飾品なども発掘されるが、多くの場合、魔鉱石発掘の副産物ということだ。では、なぜ遺跡に大量の魔鉱石が眠っているのか、ここに関しては解明されていないらしい。





 ラナさんは仕事紹介の書面をぱらぱらとめくり、ふと顔を上げて少女の顔を見た。




「どこかのギルドに所属されたりはしていますか?」




「いっいいえ…あの、その……今はフリーです」




 少女は自信なさそうに小さい声でそう答えた。




「そうですか、魔法使いの修練はどこで受けられたのですか?」




「はっはい! えっと……、セントラル魔法科学研究院を今年卒業しました」




 パララさんはそう言って、持っていた鞄からなにか格式ばった冊子のようなものを取り出して差し出していた。いわゆる通知表のようなものだろうか。


 一緒にぼろぼろの辞典のようなものが鞄から出てきたが、そちらはすぐにしまっていた。




「あらあら……、セントラル卒業ですか? あそこは魔法学の名門ですからね」





 この世界では、大学の専攻のように「魔法」という分野を学ぶ場がある。そして今名前の上がった「セントラル魔法科学研究院」とは、国が設立した名門魔法学校のことだ。この辺の知識も以前ラナさんに教えてもらった。




 私はこれを国立大学と似たものとして認識した。気になることを質問するとラナさんはなんでも答えてくれた。おっとりした雰囲気だが、とても賢い人なのだと思ったものだ。




 しかし、魔法学校をすでに卒業しているなら、パララさんは見た目ほど幼くはないようだ。この研究院は私がいた世界での大学とほぼ同じ位置付けで、卒業の年齢はたしかストレートなら20歳だったはず。





 ラナさんは差し出された冊子を見ながら少し唸ってみせた。




「パララさん、とても優秀なのですね。特に火属性と弱体化に関してすごい才能をもっておられますね?」




「そっ、そんなこと…ないです」




「これだけの能力があればギルドから推薦が来そうなものですが……、フリーでいるのはなにか訳がおありですか?」




 パララさんは顔を俯いたり上げたりしながら口をもごもご動かしている。しかし、声になっていない。言葉を選んでいるのだろうか。なにかを伝えようとしているのだけは感じ取れた。

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