あとがき
◆ 書き始めるにあたって
RPGに出てくるようなファンタジー世界に転移する物語を書きたい、という大雑把な構想から本作は始まりました。
ごく普通の人がそんな世界にいったらどうなるだろう? とまずは考えました。普通の人間像を「学生」と「会社員」で考え、今の私が社会人だったために、会社員を主人公にすることが決まりました。
次に、現代の日本で会社員をしている人が異世界に転移したらどうなるだろう? と考えたとき、ゲームの世界みたいに剣や魔法でモンスターと戦うのはまず無理だろう、という考えに至りました。
単純な戦闘力はもちろんですが、おそらく大半の日本人は、なにかと戦う、殺す、といった行為に慣れていないと思ったからです。
仮にチート級の能力を手にしたとしても、多くの人は元々営んでいた生活の延長線上に新しい世界での生活基盤を築くのではないでしょうか?
そうした考えから、異世界に転移しながらも異世界らしくない生活を送る主人公を描く物語が始まりました。
◆ テーマ
本作では「力と才能の活かし方、向き合い方」をテーマとしています。
「力」とはなんなのか、肉体的な力、権力、財力……、と例えを上げればきりがありません。
本作では特に、剣術の力や魔法の力といった闘争力的な意味合いでの「力」と、周囲の人を動かす影響力的な意味合いでの「力」の2点にスポットを当てて描きました。
もって生まれた力は、その人の生き方を大きく左右します。それは必ずしも強ければ良い方向に……、というわけではありません。場合によっては、弱いからこそ良い方向に進む力もあります。そのまた逆も然りです。
また、「力」とは自分と他人によって見方が変わります。本作の主人公スガワラが自身の非力を嘆くシーンもありますが、一方で彼の行動に多くの人たちが力を貸してくれます。それは彼の人間性あってのことです。こうした間接的な力を描きたいと思った側面もあります。
◆ 世界観
世界観としては、いわゆる王道ファンタジー風のRPGの世界観を模しています。そこにノスタルジックな雰囲気を入れようと思い、路面電車という交通機関を取り入れ、文明のレベルもそれを中心に構築しました。
現代社会で生きる私たちは、スマートフォンやパソコンを使うのが当たり前になっているため、物理的な距離を無視したコミュニケーションが容易です。
一方、そういった機器はファンタジーの世界には少々不釣り合いに感じました。そのため、近くにいない、住んでる場所がわからない……、といった物理的な障壁ゆえのコミュニケーションの不便さを話の中に取り入れています。
ただ、全部そうしてしまうと物語の進行上むずかしいところがあったために「魔法の写し紙」という特殊アイテムを1つ盛り込むに至りました。
本作を読み終えた方なら疑問に思われたかもしれませんが、かなり多くの「謎」を残したまま完結しております。
ここに関しては、本作の転移してきた2人の人間、スガワラとブリジットの会話で語られる「すべて理解するなんて不可能」に帰結します。
この物語の世界観について筆者は大変気に入っております。
現在、執筆中(別投稿サイトでは完結済み:https://kakuyomu.jp/works/16817330655920324577)の新作「白と黒の聖女」は、この世界観を踏襲しております。
新しい物語の世界が、「幸福の花は静かに笑う」の世界に対してどういった位置付けになるのか、いずれ書き記すときがくると思います。
白と黒の聖女:https://ncode.syosetu.com/n1502ix/




