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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
終章 真実
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第18話 迷走の帰結(後)-1

「トゥルーさんはお休みの日ですか?」




 隣りに座った彼に話しかける。私と彼の間にはもう1人大人が座れそうなくらいの空間があった。




「ああ、昨日酒場から戻った後、ずっと働きづめでな……。ようやく解放されたところだよ」




 街で警鐘が鳴り騒動となっていた。まものの大群との戦いもあった。それらの後始末とか王国にはきっといろいろあるのだろう。




 少しの沈黙……、お互い正面にある噴水を眺めていた。





「先日の――、私の名前に触れた話はわざとですか?」




 私は正面を向いたままで、彼に尋ねた。




「ああ……、その名前はわかりやす過ぎるな。偶然もあると思ってあんな言い方をしてみたわけだが、しっかり意図を汲んでくれたようでなによりだ」





 ――少し前の酒場での会話。




『その名前ならきっと幼少の頃から勉学に励んでいたんだろうな』




 トゥルーさんのこの台詞は私に向けたメッセージだと思った。この世界で私の名前を奇妙に思う人はいても、あんな感想を述べる人は会ったことがない。




「ラナちゃんから『スガワラさん』という名前を聞いた時、まさかと思ったよ。オレはこちらの世界に転移してからもう長い。その間、同じ境遇の人間とは一度も出会っていないからな?」




「孤児だったという話は?」




「ある意味嘘ではない。オレがこちらにやってきたのは、14歳……、中学生の時だな。当然、家族も誰もこちらにはいない。だから『孤児』という扱いを受けた」




 なるほど、考え方によっては異世界転移の大先輩というわけだ。普通なら同じ境遇の人間に奇跡的に出会えたと喜んで、お互いの身の上話をするところなのだろうか。だが、私はそんな気にはなれない。




 ブリジットが話していたこと、カレンさんが与えてくれた情報、1つひとつの情報はバラバラで意味をなさなくても、私の中に集結することで一つの答えが導ける。




 ただ……、本当にそれが真実なのか?




 私の隣りに座っている人がそんな人間には見えない。




 ラナさんやカレンさん、ブルードさんの話を聞いてもそうだ。




 この人を悪人とは思えない。





「トゥルーさんが……、ラナさんの両親を殺した犯人なんですか?」





 ――沈黙と静寂。




 私は相変わらず正面を向いていた。トゥルーさんの表情を見るのを恐れていた。




 彼は今どんな表情をしているのか?




 なにか答えようとしているのか?




 あまりにこの沈黙は長く感じられた。





「ラナちゃんが……、今よりもっと落ち込んでいるようだったらすべて話すつもりでいた」





 トゥルーさんはこうして語り始めた。




「もう隠す気はない。元々はすべて打ち明ける気でここに戻ってきたからな。その前にこうして問いただされるのも覚悟していた。ただ――、それは、ラナちゃんかカレンちゃんからだと思っていたけどな」




 彼の話を聞きながら私の心にいろんな感情が沸き上がる。その中でもっとも大きなものは間違いなく「怒り」だった。この男はどれほどラナさんを傷付けたのかわかっているのか……。




 すぐにでも飛び掛かって殴りたい衝動に駆られた。今はなんとか堪えている。この先、話を聞いて抑えたままでいられるかわからないが……。




「君にこれからすべてを話す。オレの言うことを信じるかどうかは君次第だ」




 これから聞く話を私は受け止められるのか。彼が自分で言ったようにそれを信じられるのだろうか。名前の通り、それは「真実」なのだろうか。

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