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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
終章 真実
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第17話 それぞれの決着(後)-2

 どれくらい外とのかかわりを断っていたでしょうか。毎日のように訪ねてくれるカレンと少しずつ言葉を交わしながら、ボクは両親が開いていた酒場をもう一度始めようと思いました。




 現実問題として、生活のお金がどんどん減っていきます。「魔法使い」として収入を得ることだけはしたくないと思っていました。


 ただ、それ以外でボクが生活費を稼ぐ術は限られています。幼い頃から目にして、手伝ってきた酒場を始めるのが一番現実的な方法だと思いました。




 この話にカレンは賛同してくれ、長い間ずっと両親のお手伝いをしてくれていたブルードさんに声をかけてくれました。彼も二つ返事でボクに協力すると言ってくれました。




 時の流れは少しずつですが、ボクの心の傷を癒してくれていたようです。完全に殺したと思っていた心ですが、傷つき眠っていたに過ぎなかったのです。





 最初は短い時間の営業で酒場を開きました。




 噂を聞きつけた昔の常連客の方がたくさん来てくれました。ボクのことを幼い頃から知っている人たちばかりです。カレンも変わらず毎日顔を出してくれました。




 ほんの少しずつ……、笑えるようになり、喜べるようになり、怒れるようにもなりました。どうしても目覚めてくれない部分が心の奥底にありましたが、そこを除いてボクは「普通」を取り戻していったのです。





 酒場を開ける時間を両親が営業していた頃と同じにし、フリーの冒険家向けの仕事の斡旋を請け負うこともできました。生活資金も安定し、その頃になると、ボクについて、魔法使いどうこうという話題自体が無くなってきていました。




 ボク自身があえて避けようとしていたわけではありませんが、世の中から「ラナンキュラス・ローゼンバーグ」という魔法使いは消えてしまったようです。ボクはそれでいいと思っていました。





 平和な日常を取り戻したボクに衝撃を与えたのが、この辺りで起こった殺傷事件です。被害者はなんと王国騎士団の剣士です。




 最初はただただ物騒な事件くらいに思っていました。ですが、たまたま酒場で飲んでいた衛兵の方が、殺された剣士様の遺体に残された「傷」についての話をしていたのです。




『――奇妙な十字傷? それってボクの両親の遺体にあったものと同じ!?』




 酒場を開き、穏やかな日々を送っていたボクですが、両親の事件に関してだけは片時も忘れてはいませんでした。犯人がずっと見つかっていなかったからです。




 衛兵団が頼りにならないのならボク自身の手で必ず捕まえてみせる。




 ずっとそう思っていました。そして、同じような事件の情報が偶然耳に入ってきたのです。ボクはどうにかして犯人に近付く方法がないかを考えました。そして、自ら模倣犯となって騒ぎを大きくし、犯人を誘い出すことを考えたのです。




 人は絶対に傷付けない。それだけは決めていました。




 ですが、実際に人を襲う罪悪感は心を締め付けました。襲った人から聞こえる叫び声、恐怖に引きつった表情……、斬りつけている()()がたとえ服や道具であっても、それらは脳裏に――、心に刻み込まれました。




 それでも、ボクは犯人を見つけるためならなんでもすると決めていました。




 そんなとき、偶然「彼」と出会いました。




 今振り返れば、彼との出会いからボクの周りを取り巻く世界は急速に変わっていった気がします。不思議と彼は、ボクが失っていたものを勝手に取り戻していってくれているようでした。




 とてもとても不思議な人、スガワラさんとの出会いでした。

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