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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第1話 薬草の販売-2

「あの……、薬草を売ってほしいんですけど……」





 左手の人差し指でこめかみの辺りをカリカリと掻いている。売ってほしい……、一瞬、ここに薬草を買いに来たような口ぶりに聞こえたが、売りたい商品が薬草なのだとすぐに認識を改めた。


 あまりに一般的すぎる品名の登場に、逆に意表を突かれてしまった。





「外は暑かったでしょう? ゆっくりしていってくださいね」





 ラナさんは水の入ったグラスを横から差し出しながらそう言った。彼女は、なにかあったら呼んでください、と表情で見せてまた店の奥へと消えていった。




()()()()……というと、あの薬屋さんや道具屋さんに普通に置いてある――」




 ここまで言ったところでオット氏は頷きながら、話し始めた。




「はい……。その、普通の薬草です」




「オレ、この近くの道具屋で手伝いをさせてもらってるんですけど、失敗が多いんです……。それで、昨日薬草の発注間違えてしまって……」





 なるほど、おおよその話はよめてきた気はする……が、話の先を促した。




「普通より500個も多く薬草を注文してしまったんです……。店主もうカンカンで、この薬草を全部捌かないと店、クビになりそうなんですよ!」




 またこめかみの辺りをカリカリと掻いている。どうやら彼の癖のようだ。




「なるほど、それは返品とかできないものなんでしょうか?」




 とりあえず普通の疑問から投げかけてみることにした。





「薬草は返品がむずかしい商品なんですよ? きっと鮮度の問題だと思います」





 いつの間にか後ろにいたラナさんがそう言った。私たちの会話を聞いていたらしい。オット氏もそうです、といわんばかりにコクコクと頷いている。




「それに……、普通の薬草って最近使う人減ってるんですよ、傷薬はいいものでも安く手に入りますので」




 なるほど、少しの値差で上位互換が手に入るということか。





「鮮度が保てるのは、大体10日くらいなんです。それまでに全部売り切って店にお金払わないと……、ああぁ…考えただけで頭が痛くなってきた」




 オット氏はその痛みを訴えるように頭を抱える仕草をしている。




「その数では1個1個売ってまわるのは難しいでしょう。どこかのギルドとかにまとめて買い取ってもらうとかはできないのでしょうか?」




「それは考えたんですけど、どこのギルドも決まったところから仕入れしてて、飛び込みでは買ってくれないんですよ!」




「なるほど、わかりました。鮮度を考えると7日間程度で全部売り切りたいところですね」




「そうなんです! でも、薬草500個ですよ。普通の値段でとても売れる気がしない」





 頭の中で販売方法をいくつか模索してみたが、すぐに妙案は思い浮かばなかった。




「とりあえず、私が10個ほど買いましょう。その後、残り490個売る方法を考えます」




「ありがとうございます……。ですが、売れたら……、えっとスガワラさんへの報酬は?」




「薬草の販売価格に利益をのせます。そしてその半分を私がもらいます」




「安くてもなかなか売れない薬草を、さらに値上げして売るつもりなんですか?」




「はい、利益が出ないことには私の仕事になりませんから」




「……そ、そうですか、それではとりあえず10個お願いします」





 そこまで言って、私は我に返った。たかが薬草10個……、ただ、酒場で居候中の私にはお金がほとんどないのだった。以前はそれなりに自由に使えるお金を持っていたので、その感覚で話をしてしまった。




 これから稼いでいこうと決めてこの仕事を始めたばかりだ。苦い顔をしていたら、ラナさんが横から覗き込んできた。表情を見て、私の現状を悟ってくれたのかもしれない。




「薬草10個くらいならボクが買ってあげますよ? その分たくさん働いてもらいますけどね」




 笑顔を見せた後、彼女は再び店の奥へと消えていった。一人称「ボク」が妙に耳に残って消えなかった。

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