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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
終章 真実
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◆第17話 それぞれの決着(前)-1

 ボクの世界は、幼い頃から手のひらくらいの小さな光が飛び交っていました。一つひとつの光は淡く儚げで――、よくよく覗いてみるとそれらは色や形が微妙に違っていました。




 光は言葉を発しません。




 ですが、不思議と心が通じている気がしました。悲しくて泣いているときはたくさんの光が集まって来て、ボクの周りを包むように輝いていました。


 楽しいときはボクの周りを踊るようにくるくると飛び回っていました。




 ですが、お父さんやお母さんに話しても「光」のことは通じません。両親は最初こそボクの話に付き合ってくれましたが、初等学校に入った頃には否定されるようになっていました。




 両親には光が見えていないのです。




 学校の友達や先生に話しても光のことは伝わりませんでした。それでようやく幼いボクは気付いたのです。




 これはボク以外には見えていないものだと……。




 ボク以外には見えていない……、それを理解すると光が見えない世界を見られるようになりました。正確にはそこに()()のですが、意識せずとも「無いもの」として捉えられるようになったのです。




 きっとそれが、ボク以外の人々が見ている()()()()()でした。





 初等学校で魔法学について勉強するうちに光の正体が「精霊」であると気付きました。本来、精霊は人の目には映らず、精神エネルギーを譲渡する契約によって彼らの力を借りることができるもの。




 ですが、ボクの周りにいる精霊は、心の中でお願いをすると力を貸してくれるのです。通常、精霊とコンタクトをとるためには、必要な術式があって、呪文があって、場合によっては触媒といった道具も必要で……、という感じです。




 ――それがあるべき魔法使いの常識。




 ボクの知る限り、この常識に当てはまらない例外は「ボク」だけでした。それに気付いた時、ボクは魔法使いになろうと決心をしました。




 これは神様がボクだけに与えてくれた「力」なんだと……。






 魔法学の勉強をとてもがんばりました。魔法を使う上できっとボクの力は恐ろしいほど優位だったと思います。けど、それに甘えるとボクの周りの精霊は逃げてしまうような気がしたのです。




 ボク以外の魔法使いが必死にこの道を極めようとするように、それと同じかそれ以上にボクは魔法学を追求しました。魔法使いとしての技量を高めるのはもちろん、精霊についてもっともっと知りたかったのです。




 魔法学を学び、研究することによってボクはより精霊への理解を深めていきました。それによって彼らはこれまで以上に多くの力を貸してくれるようになったのです。




 言葉を介さなくても精霊はボクの友人のようでした。





 セントラル魔法科学研究院――、ボクのいる国でもっとも魔法学の研究に秀でた学校であり、同時に研究機関でもありました。努力が報われたのか、精霊たちの助力のおかげなのか、ボクはここに進むことができたのです。




 これまで学んできた内容よりずっと高度な魔法学の研究、訓練、実践……、経験を積むにつれてボクは精霊への力の借り方を覚えていきました。それは術式や呪文といったものではない――、きっとボク自身にしかわからないものです。




 ただ、ボクはセントラルの実践で魔法を使うようになってからその力を制御するようになっていました。


 自惚れではなく、ボクの魔法は同じ魔法を使う他の多くの魔法使いよりも遥かに高次元の威力を誇っていたのです。加減を間違えると思わぬ事故を引き起こしてしまうような気がしていました。




 それからボクは、同じ魔法でも2つの方法で使うようになりました。




 他の魔法使い同様に精神エネルギーを交換して力を得る方法と、これまで通り直接働きかけて力を借りる方法の2つです。


 前者の方法は、身体の負担が大きく威力も大幅に制限されました。ですが、これが普通の魔法使いなのです。ボクは魔法の使い方を分けることで、特別な魔法使いのボクと、普通の魔法使いのボクを共存させました。




 ほとんどの人はボクが力を制御していることに気付いていません。




「不死鳥」と呼ばれる伝説の魔法剣士、シャネイラさんを除いては……。

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