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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
終章 真実
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第16話 橋上の決戦(前)-4

 ――王国北の城門。




 警鐘が鳴り響いてからどの程度の時が経っただろうか。私たちブレイブ・ピラーは多くの人員をここに送り込んでいた。その数は先日の「黒の遺跡」での殲滅作戦を上回る。




 そして、同様に他多数のギルドから人が送り込まれているようだ。ぱっと見で目に付くのは「知恵の結晶」や「やどりき」……、規模が大きい分、ここにいる人数も多い。


 皆揃ってギルドの制服を着ているのでわかりやすい。門の先頭で集団を成しているのは王国騎士団だ。




 ギルドの本部に連絡が入った際に聞いた話――、それからここに着いてから聞かされた話はこうだ。




 この城門からずっと先に行ったところに「黒の遺跡」がある。そこに駐屯していた部隊が壊滅状態に陥っている。


 理由は、まものの襲撃。だが、そのまものは遺跡の中から現れたものだけではない。まるで、編成された部隊のように周囲から大量のまものが集まり、黒の遺跡にいた部隊を襲った。




 まものの集団はまるで統制された軍隊のように群れを成して、黒の遺跡からこちらへ向かってきている。





 王国と遺跡を結ぶ道には2つの拠点がある。




 1つは、過去に隣国との大戦時に築かれたという関所だ。しかし、位置関係の問題で今からそこに援軍を送ってもまものの大群を退けるのは難しいと判断された。そのため、一部の兵団を残して関所はすでに開け放つ準備に入っているようだ。




 もう1つの拠点は、途中にある大きな川に架けられた橋、「アルコンブリッジ」だ。




 橋は流入できる人数が限られるため、戦いにおける重要な拠点となる。大軍をせき止めるには都合のいい場所だ。遺跡とこことの位置から考えても、今部隊を送り込めばまものの大群を橋で迎え撃つことができる――、という算段らしい。






「後方の部隊の指揮はグロイツェルに任せます。前線には私が出ましょう」




 この感情がない独特の声はシャネイラだ。まさかあのシャネイラが戦闘の最前線に出るつもりなのか……。




「カレンとあなたの2番隊は私の援護をお願いします。振り返る気はありませんので、背中はお任せしますよ」




「大丈夫なのかい? ギルドマスターのあんたが前線指揮を執るなんて?」




「それほどまでに状況はひっ迫しているようです。先頭の王国騎士団が動き出したら我々も続きます」




 シャネイラの言葉に私を含めた全員が息をのんだ。たしかにこれまでまものが徒党を組んで襲ってくるなんて話は聞いたことがない。過去に経験のない異質な状況に対して、シャネイラは全力で対処するつもりだ。




「安心しなさい。この私がなんと呼ばれているかは知っているでしょう? それに魔法使いの遠距離攻撃で片付く可能性もあるのです。そうなれば我々の出番は無しに戦いは終わります」




 シャネイラの後から言った話は、この場の空気を和らげるためのものだとわかった。そんな楽な戦いになるとはきっと思っていないのだろうから。




 だが、その前に言った言葉には重みがある。王国最強の魔法剣士「不死鳥」の名をもつシャネイラだ。私の師でもあるこいつがやられる姿はまったく想像できない。




「それから、グロイツェル。あなたには別で伝えることがあります」




 シャネイラはそう言ってグロイツェルの横に立ち、鉄仮面越しに耳打ちをしている。グロイツェルは少しの間、シャネイラの顔を見つめた後に小さく頷いていた。




「9番隊の準備は整っていますか?」




 9番隊――、うちの部隊の中でも救護支援を専門に行う部隊だ。「隊」の単位よりも個人で別の部隊に同行することが多い。本人はまったく自覚がないようだが、一応この隊の率いているのはリンカである。




「はいはーい、マスター。こっちはいつでも流血大歓迎ですよー」




 リンカはシャネイラ相手でもいつもの調子で、気だるそうな顔をしながら返事をしている。




「あなたの隊は活躍しないのが一番望ましいのですが……、今回はどういった戦いになるのか予測がしにくい。状況に応じて王国騎士団の救護班とも連携し、他のギルドの人間含めて回復を徹底しなさい」




「もちろんですよー。うちの隊員は優秀なんで、遠慮なく血流して戻って来てください」




「フフフ、リンカの世話にはなりたくないものですね」




 緊迫している状況に対してリンカの間延びした話し方はあまりに不釣り合いだった。彼女がシャネイラとつまらない話をしていると、城門に控えていた先頭の部隊が進み始めた。




「準備が整ったようですね、我々も続きますよ」




 シャネイラが隊の先頭に目をやると、私を含めたブレイヴ・ピラーの隊員が一斉に同じところに目を向けた。

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