◇ 間奏4 ◇
××日目
この世界に来た日から電源を切っていたスマートフォンを付けた。長期間放っていたので電池が切れているかと思っていたが、奇跡的に電源は入った。画面が点いた瞬間にバッテリーを抑えるモードに切り替わった。操作はわずかな時間しかできないだろう。
当たり前だが、圏外の表示で電話もインターネットも使えない。ただ、今使いたい機能はそれではなかった。このスマホを持ってから一度も使ったことのない機能で、急に思い出したものがある。
それはオフラインの辞書機能だ。
電子書籍のダウンロードで、過去に入れた記憶があった。もっとも現代の日本にいたとき、その機能は一度も使っていない。
電池の残量が頼りないので、素早く操作して辞書でとある単語を調べた。
『ラナンキュラス』
花について、それほど興味があるわけではなかったが、これだけは調べておきたかった。花言葉は、色によっていくつか種類があるようだ。私はラナさんを想像して、彼女の紫に輝く髪を思い浮かべた。
紫色のラナンキュラス。
――花言葉は「幸福」。
これを目にした瞬間、スマホの画面は真っ暗になった。もう画面を付けることはできないだろう。




