第14話 発想の融合-7
その日、私はラナさんと一緒に宿屋のゴードンさんを訪ねた。
「いやぁ、ラナちゃんもご一緒で暑い中ようこそお越しくださいました」
ゴードンさんは外を歩いてきた私たちより暑そうにしている。エントランスの隅にある簡易な応接セットに案内され、水を入れたコップを持って彼はやってきた。
「お忙しいところすみません。いくつかご提案できる内容がまとまったのでお話に来た次第です」
商談になるので、自分に気合を入れる意味も込めて私はスーツにネクタイを締めてきている。ただ、通気性があまりよくないので中でじわじわと汗をかいていた。
「こんなに早く妙案を思い付くなんてさすがですね! 相談した甲斐がありますよ」
「いいえ、それはしっかり集客――、もしくは利益として結果が出てからの話です」
私は謙遜でもなく、本心でそう言った。結果がすべてとはまでは言わない。それでも「結果」が非常に大事であることに間違いはないのだ。
「ご提案は全部で3つあります。そのなかでなにを取り入れるかはゴードンさんにお任せしようと思います」
「わかりました。ぜひ聞かせて下さい」
彼は汗を拭きながら身を乗り出してきた。
「はい。では、まず1つ目です。一度来てもらったお客様に割引券を3枚ほど配布してはいかがでしょうか?」
「ほう、割引券ですか……?」
「宿代をいくらか値引きするか、もしくは朝食の無料券とかでもいいかもしれません。もちろん一定の期間内しか使えないものにします。3枚渡すのはお客様からその知人へと紹介してもらうためです」
これはありふれた方法だが効果的だろう。特にこうした宿を使うことが多い冒険家は、彼らの中にコミュニティがあると思う。そこに割引券が流通すれば利用者が増えると予想できる。
「そうか、これなら一度来たお客さんがまた来た際お得になりますし、お仲間を連れて来てくれるかもしれない、というわけですね?」
「仰る通りです。券を発行した枚数と回収した枚数、それにかかったコストと実際の集客数と利益を長期的に見ないといけませんが、長い目でみると効果は見込めると思います」
「すごいですね、なんというかスガさんは発想がワシなんかとは根本的に違っています」
ゴードンさんは汗を流しながら何度も頷いていた。
「そんなことはありませんよ。私はこういう提案が本職なだけです。では、2つ目のお話をします。これは維持費や人件費とも相談になりますが、大浴場を宿泊客以外にも開放してはいかがでしょう?」
「先代がやってたお風呂屋をまたやるような感じですかね?」
「その通りです。あれだけ施設が充実していれば、それ単体で十分集客を見込めると思うのです」
「たしかにそれは考えたことあるんだよね。けど、お風呂屋さんは他にもあるし、どうなのかなぁって思ってて――」
「はい。ですので、3つ目の提案です。これは大浴場の開放とセットでの話なのですが……」
私がここまで話たところでラナさんが「例の道具」を取り出した。




