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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第4章 意思疎通≪コミュニケーション≫
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第14話 発想の融合-4

 最寄りの駅から1駅、近過ぎるがゆえにあまり歩いたことがないところだ。駅員が1人いたので、宿屋の場所を尋ねると教えてくれた。


 ここから歩いて5分程度――、「目の前」というほどではないが、不便には感じない距離だろう。




 辿り着いた宿屋は、ゴードンさんの宿と同じくらいの規模に見えた。2階建ての洋風建築だ。彼のところとの大きな違いは外観が非常に綺麗なことだ。建てられてからまだ、それほどの年月が経っていないのだろう。




 入口の扉を開けると、エントランスに若い金髪の女性が立っていた。どうやら彼女が受付の人らしい。




「いらっしゃいませ、お泊りですか?」




「ええと、はい……。1人なんですが、お部屋は空いてますか?」




「ええ、もちろんです。いつまでの予定です?」




「明日の朝にここを発とうかと思っています」




「かしこまりました。お食事は朝食だけとなっておりますけどよろしいですか?」




 この辺の仕組みはゴードンさんのところと一緒だな。どこの宿屋も似たような仕組みなんだろうか。




「それで構いません。明日の朝食だけいただけると助かります」




「かしこまりました。1泊と朝食付きで550ゴールドになりまして、前払いになりますけどよろしいですか?」




「わかりました」




 私の感覚での円換算で約5,500円で1泊朝食付か。




 ビジネスホテルでも相当安い料金だ。エントランスに価格表が掛かっており、それを見て今の料金の50ゴールド分が朝食代だとわかった。私はリュックからコイン入れを取り出して、550ゴールドを支払った。


 すると、受付の女性はそのまま私を2階へと誘導してくれた。振り返ると、別の男性スタッフが入れ替わりでエントランスに入っていた。




「お荷物預かりましょうか?」




「ああ、えっと……お気遣いなく、大丈夫です」




 こういうちょっとしたサービスをなぜか断ってしまうのは私の昔からの癖だった。人になにかしてもらうのがどうにも落ち着かないのだ。




 宿屋の内装も外と同じく新しくて綺麗だ。階段を上がり、右手側の一番奥の部屋を案内された。




「ご用の際は、ご足労ですが入口のところでお声かけをいただきますようお願いします」




 そう言って、女性は部屋の鍵を室内の真ん中にあるテーブルの上に置くと部屋を出ていった。





「さて……と、酒場に戻る前にいろいろ調べるとするか」





 私は自分を鼓舞するように小さな声を出し、まずは部屋の観察から始めた。まず、今わかっている情報として、宿賃や朝食代はゴードンさんの宿屋とまったく同じだ。私が知らないだけで、ひょっとしたら宿屋間での紳士協定みたいなのがあるのかもしれない。




 外観や内装の綺麗さはこちらの宿の方が優っている。だが、それは建物自体の年季の問題で、ゴードンさんのところが散らかっていたり掃除がされていないわけではない。そういう意味でこれに関しては埋めようがない部分だと思われる。




 客室の設備もほとんど変わらず、簡易な寝床にテーブルに収納、お手洗い……、そして浴場も備えてあった。ここはどうやら1部屋ごとにそれが設けてあるようだ。もっとも浴場といっても湯舟はなく、簡易なシャワールーム……、というか行水ルームといった感じだ。




 寝床の心地は夜に確かめるとして、他に目立った違いは見て取れない。現代日本の感覚でテレビがどこにあるのかと探してしまったが、あるわけなかった。




 やはり、宿屋の施設として大きな差があるとは思えない。




 ただ逆に差がないとなると、たった一駅分と言えども王国の中心に近いこちらの宿の方が冒険家は利用しやすいのかもしれない。


 私は部屋に着替えなどの荷物を置いたあと、宿屋の中を一通り見てまわった。2階はすべて客室のようで、扉が開けっ放しの部屋がいくつか見られたので、そこは空室なのだと思う。





 1階に降りて、宿の人間に怪しまれない程度に中を歩いてまわった。朝食を食べる共同スペースが設けてあって、綺麗に木製の椅子とテーブルが並べられている。時々すれ違う従業員はにこやかに会釈をしたり、道を譲ってくれたりと接客の指導も行き届いているようだ。




 エントランスで試しに周辺施設について尋ねてみると、武器屋に道具屋、酒場に食事処と一通り答えてくれた。





 こうした宿は近隣の施設をいかに把握して、初めて来たお客を案内できるかも大事なところだと思う。ここはそのあたりに関してもしっかりしているようだ。これは長い目で見てもゴードンさんの宿屋のライバルとして手強い存在になるのではないだろうか。




 今思い付く限りの調査を終えた私はそのままここを出て、酒場へ戻ることにした。外はお日様が高いところまで上がっていて、強烈な日差しが焼き付けるように照らしてきた。

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