第11話 漆黒の意思(後)-5
そして、ラナさんは駆け出した!
彼女の背中を追うように全員が続く。そして、私たち目掛けてまものが群がってくるのを感じた。先頭のラナさんは急ブレーキで止まり、両手に握った杖を地面に突き立てた。彼女が止まる、とわかっていた私たちも同時に立ち止まる。
ラナさんの杖が一瞬、目がくらむような強い光を放った。
「テンペストッ!!」
ラナさんを中心に、この暗い空間に竜巻が起こった!
間近で見る魔法の迫力は魔法闘技の比ではなかった。
台風の目となっているのか、私たちの立っている場所だけが無風。
その周りは砂と剥がれた石壁とまものと……、いろいろ混ざり合った嵐と化していた。
数秒だったのか、もう少し長かったのか、時間の感覚がわからない。嵐の勢いが少しずつ衰えていく中、正面の通路がなんとか視認できた。
カレンさん、サージェ氏、ランさんはそこに飛び込む。私も無我夢中でその背中を追いかける。ラナさんは私の後ろを追って来た。
「全員通路に入ったね! 一気に駆け抜けるよ!」
カレンさんが大声で叫ぶ。
私はランさんの背中を見ながら全力で走った。そして、一瞬だけ後ろを振り返る。数メートル距離を置いた先にラナさんはこちらに背を向けて立っている。
「ヴォルケーノ!」
炎の赤い光がこちら側にまで射し込んできた。同時に背中に「熱」を感じる。追っ手を止めるために通路の天井を破壊して、道ごと封鎖してしまった。
「サージェ、前からも来る! こっちは私たちの出番だよ!」
私はただ夢中で前を走る人の背中を追っていた。すると、前から黒い液体の飛沫が飛んでくる。これがなにか頭でわかっているが、今は「前を追う」気持ちが、これの不快感を凌駕していた。
走り続けて、カレンさんと会う前に立ち止まった分かれ道の部屋までやってきた。
「こっからはサージェが先頭で走れ! 私はラナと合流してから追いかける!」
「今度はちゃんと追いついて来てくださいよ、カレン様!」
「はっ、言ってくれるじゃないか! あんまり舐めるんじゃないよ!」
広い部屋でカレンさんとすれ違う。サージェ氏は出口方向の通路へ向かっていく。ランさんも、私もその背中を追っていく。
「――ぇっ!」
私は、地面の突起に足をぶつけてふらついた。転びこそしなかったが、ランさんの背中から少し遅れてしまう。そして、前を行く彼がこちらに気付いて振り返る顔を見たとき、その間を黒い闇が遮った。
私の正面に、私と同じくらいの背丈の「まもの」が立ちはだかった。
危ない、と思ったとき、腰にぶら下げていた短剣が目に入った。
咄嗟にそれを引き抜いて、私はまものにその刃を向けた。
時間にして1秒あったのだろうか、まものの「顔」と思われる部位と私は睨み合った。
そして次の瞬間、その顔の部分は胴体と切り離された。
目の前には剣を振り切った姿だけを残したカレンさんがいた。そして、数秒遅れて黒い液体が私と彼女に降り注ぐ。
「よく剣を抜いたな、スガ! さぁ、早く行きな!」
私がカレンさんの顔を見つめていると、戻ってきていたランさんが私の手を力強く引いて走ってくれた。その後ろにカレンさんとラナさんの姿が見えた。全員が広い部屋を抜けて、狭い通路に入ったのを確認すると、ラナさんは再び立ち止まった。
「ここも塞いだらもう安全なはずっ! ヴォルケーノッ!」
またも狭く暗い通路に赤い光が反射した。石壁が崩れる轟音が響いてくるが、それと同じくらいに自分の心臓の音が大きくなっている。
そこから先も息を絶え絶えにしながら走り続けた。
そして、魔鉱石の光が灯る道までなんとか辿り着いた。日頃の運動不足のせいか、息もあがって、足取りもかなり怪しくなっている。しかし、先頭のサージェ氏は歩を止めなかった。
「ここまで来たら出口まで走り切るぞ! 急げ!」
出口までの距離がいまひとつわからなかい。後ろにラナさんとカレンさんの姿を確認した私は、疲労で歪んだ表情に少しだけ笑いを混ぜられた。ランさんがぐいぐいと手を引いてくれるおかげで、なんとか走り続けることができた。
出口に辿り着いた瞬間、私は崩れるようにその場に倒れた。




