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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第4章 意思疎通≪コミュニケーション≫
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第11話 漆黒の意思(後)-3

「サージェくん、ちょっと面倒なところに来てしまったようですね?」




「はい、そのようです。ランギス様、いかがしましょうか?」





 サージェ氏とランさんの灯りが私たちのところに戻って来た。「面倒なところ」とはどういう意味だろうか?





「ここは分かれ道になっていますね。3方向に通路があって、どの道もその先の様子がわかりません。この人数で手分けするわけにもいきませんし、どの道を選ぶかは考えものですね」




「各通路の入り口を念入りに見てみましたが、人が通った痕跡は見つかりません。ですが、カレン様と最初にまものの群れと遭遇した場所から、ここに至るまで分かれ道はありませんでした。つまり、カレン様はこの3つの道のいずれかを進んだはずです」




「カレンちゃんなら分かれ道を通るときには、なにか印を残していきそうですけどね……。もちろん気付かなかったり、そんな余裕もなかったというのも考えられますけど」




「あまり時間をかけたくはないが、もう少しそれぞれの通路を調べてみるしかなさそうだな」




 サージェ氏から明らかな苛立ちを感じる。彼らの会話を聞きながら、私とラナさんはずっと背中合わせの状態のままでいた。





 その時――、私はたしかに「声」を聴いた。





「ラナさん! 今の声、聞こえましたか!?」




 私は顔の向きをそのままに後ろにいるラナさんに問いかけた。




「声……、ですか? えっ……と、まものの?」




 私の声が大きかったせいか、ランさんとサージェ氏がこちらに駆け寄って来る。口々になにがあったと尋ねられた。




「今の『声』です! ランさんが調べていた通路の方から聞こえました!」




 ランさんは首を傾げている。




「声、ですか? うーん、と……そういえばたしかに僕のいた通路の方からまものの声がしますね?」




 なんだ? 私が伝えたいことと微妙にズレている。




「違うんです! まものの声ではなくて――」




「カレン様の声がしたというのかっ!?」




 サージェ氏がすごい剣幕で迫ってきた。




「えっ……と、ランさんのいた通路の方にカレンさんは()()と思います」




「よくやった、スガワラ! それでこそ連れてきた甲斐があるというものだ!」




 なんだ、この状況は? 私以外にこの「声」は聞こえていないのか?




「僕にはカレンちゃんの声は聞こえませんでしたが――、ここで迷っていても仕方ありません。こちらの通路を進んでみましょう」




「ひょっとすると、スガさんはとっても耳がいいのかもしれませんね」





 サージェ氏を先頭に、隊列を戻して「声」のした通路を私たちは進んだ。右に左に何度か曲がった時にサージェ氏が呟いた。





「まものの気配……、これは1匹や2匹ではない」





 誰でもわかるくらいに、あの巨人の唸り声のような音が聞こえてくる。それは明らかに1匹の個体から発せられているものではない。しかし、視界に現れる気配は一向にない。サージェ氏は焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくり進んでいるようだった。




 ランさんもこれまで以上に後ろを警戒している。ここに来る前に分かれ道があった以上、選ばなかった道からまものがやってくる可能性は当然あるはずだ。




 警戒しながら進むとその道の果てに、またしても開けた広い空間に出た。そして、その部屋の壁際に見慣れた人影を見つけた。





「カレン様っ!」





 サージェ氏は大声で叫んで彼女の元へ駆け寄った。




「ちょっと、サージェくん! 迂闊に飛び出すと危ないですよ!」




 先頭のサージェ氏が走り出したことで、つられて私とラナさんも、そしてランさんも前へと駆け出していた。だが、私たちは揃って次の一言に耳を疑うことになる。





「バカっ! こっちに来るな!」





 それは耳慣れた……、間違いなくカレンさんの声だった。 

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