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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第4章 意思疎通≪コミュニケーション≫
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第11話 漆黒の意思(後)-2

「ランギスを隊長として、サージェ、それにラナンキュラス様とスガワラ氏の4名でカレンの捜索に向かいました」




 グロイツェルは王国騎士団の本隊が構える野営のテントにいた。報告を受けているのはブレイヴ・ピラーのギルドマスター、シャネイラだ。





「ラナンキュラスの力を借りられたのは幸いです。捜索にあまり人数を割こうとすると王国の連中がうるさいですからね。彼女なら、半端な魔法使いが束になるよりはるかに戦力になります」





 シャネイラは「黒の遺跡」を遠目に見つめながらそう言った。鉄仮面の下の表情はわからない。ただ、数秒の間、まるで遺跡の中を透かしているかのように一点を見つめていた。





「――本隊の退却準備の進捗はいかがでしょうか?」





 グロイツェルは自分が不在の間の状況を確認する。




「王国本隊の準備は滞りなく進んでいるようですよ。危険な前線はほとんど我々や他のギルドから派遣された部隊と入れ替わっていますから。それでも私が睨みをきかせているおかげなのか、早々に逃げ出したりはしないようです」




「騎士団の上層部はマスターのことが苦手のようですから」




「フフフ、扱いにくいのでしょうね。それに……、気味が悪いのでしょう。私の顔を知っている連中にとっては」




 シャネイラは機械音声のような声でそう言った。その声に、わずかながら笑いが含まれているようにグロイツェルは感じていた。





◆◆◆





「ここは安全ですし、視界も開けています。一旦休憩をとりましょうか?」




 ランさんは前を進んでいるサージェ氏にそう提案した。




「カレン様の状況がわからない今、一刻の時間も惜しいと思いませんか? 自分はこのまま進むべきだと思います」




 隊列の都合、私とラナさんを間に挟んで、ランさんとサージェ氏は話し合いを始めた。私も早くカレンさんの元に駆け付けたい気持ちはあった。ただ、身体は正直なもので、たくさんのアイテムを詰め込んだリュックサックはそれなりに重く、疲労が出てきているのも事実だ。




「サージェくん、気持ちはわかりますが焦ってはいけません。この先どこで休めるかもわからないんです。ここは僕の言うことに従って下さい」




「くっ……、わかりました。少しだけ休みます」





 こうして私たちは休憩をとることになった。進んできた道をランさんが見張り、これから進む道をサージェ氏が見張っている。私は地面が濡れていないかを触って確かめた後、腰を下ろす。ラナさんも私の隣りに腰を下ろした。





「皆さん、食事とお水をしっかりとってくださいね。でも、お水は飲み過ぎないように! こういうところでは『もよおした』ときがけっこう危険なんですよ」





 ランさんは、遺跡で用を足しに行った冒険家がそれっきり帰って来なかった、というエピソードを話してくれた。たしかに、そういったときはこんな場所であってもひとりになりたい。ただ、それは非常に危険な状況になりえる。




 ランさんはこの話を笑い話のように語っていたが、ラナさんを視界に入れてから急にばつが悪そうな顔になった。




 サージェ氏は落ち着きない様子で話を聞いている。一刻も早く捜索を再開したいのが本音なのだろう。





 ラナさんは専用のポシェットから小さな布の包みを取り出してた。なんと中から出てきたのは「星と月のトリート」だ。それも「星」だけ……。




「ふふ、実は酒場を出るときに少し持ってきたんですよ。甘いものはお腹を満たしてくれますからね。皆さん食べて下さい」




 携帯食は、硬くて味の薄いパンみたいでお世辞にもおいしいとは言えない。それゆえにここでのお菓子はいつも以上においしく感じられた。





「サージェさんもどうぞ」




「……ありがとうございます。いただきます」




「大丈夫ですよ、カレンは無事です。あの子と付き合いの長いボクが言うのだから間違いありません」





 ラナさんはサージェ氏の心の焦りを察しているようだ。時間にしておそらく10分程度の休憩だっただろうか。身体の疲れもそうだが、精神的な疲労がだいぶとれたように感じる。やはり慣れない環境で自分が思っている以上に心は張りつめていたようだ。




 ランさんが元気よく号令をかけて、私たちは再び捜索を開始した。




 そして先ほど休憩していた場所から少し進んだところで、皆が揃って足を止めた。通路の奥の方でなにか音……、鳴き声のようなものが聞こえたからだ。まるで巨人の唸り声のようだった。




「今のは、なにかの鳴き声ですか?」





「はい、まものの『声』です。動物が鳴くのと同じようにまものも声を発します。仲間を呼んだりとかの意味があるのかはわかっていませんけどね」





 背中からランさんが説明してくれた。




「すぐ近くではないが、何匹かいるようだな」




 サージェ氏は進むペースをおとして、じりじりと一歩ずつ前へと歩いていく。私もその背中を見ながら同じペースで歩いた。すると、またも開けた部屋……、と呼んでいいものか、開けた空間に出た。




「まものは……、ここにはいないようだが、かなり広い場所のようです。ランギス様も注意してください」




 サージェ氏は手持ちのランプを右に左に振りながら部屋の様子を確認している。





「僕も部屋の様子を確認してきます。ラナさんとスガさんは背中合わせになってそれぞれの正面に注意を払って下さい」





 ランさんはそう言ってサージェ氏とは逆方向をランプで照らしていた。




 すると、ラナさんが私の後ろにまわって背中合わせになった。背中同士とはいえ、ラナさんの身体とかつてないほど近い距離にある気がする。私は変な緊張をしていた。まったくこんな状況なのになにを考えているんだ、私は……。

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