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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第4章 意思疎通≪コミュニケーション≫
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第11話 漆黒の意思(前)-5

「作戦の本隊はすでに撤退の準備に入っています。ですが、このままではカレン様の捜索も同時に打ち切られてしまいます」




「我々ブレイヴ・ピラーの隊だけでも捜索に残りたいのですが、王国の本隊がいなくなってしまえばそれも厳しい。残念ながら、全体の指揮権がこちらにないため、今、勝手に多くの人員を捜索に割くこともできないでいます」




 グロイツェル氏も途中から説明に加わっていた。





「完全に隊が撤退するまで恐らくは後2、3日です。その間にカレンを見つけ出し、救出するためには、別動隊をつくるしかないかと思います」





 なるほど、つまり今派遣している部隊の指揮権はグロイツェル氏にないが、追加で入れた人なら自由に動かせるという話か。




「少ない人数ならカレンの捜索にまわせます。元々の現場に居合わせたサージェはそちらにまわす予定です。ですが、魔物との遭遇を考えると戦力的に不十分です。それで、今現場にいる人間以外での援軍が必要、というわけです」




「それで……、ボクに協力してほしい、というのですか?」




 グロイツェル氏はゆっくりと頷いた。




「ラナンキュラス様なら、たとえひとりであっても、十分過ぎる戦力になりえると――」




「それはシャネイラの命令ですか? うまくやれば対外的に、ボクが『ブレイヴ・ピラーに協力した』とも言えますからね」




 ラナさんは明らかに苛立っていた。口調がいつもより厳しく、手や指を忙しなく動かしている。




「ボクはみなさんと違って戦闘の経験があまりありません。期待されているほどの戦力になれるかはわかりません……。ですが、カレンのためならいくらでも協力をします」




「マスター・シャネイラも今回の任務に関わってはいますが――、捜索隊に加わるのは難しいようです。他の主力部隊も本隊と行動をともにしているため援軍が望めない状況です」




「――話はわかりました。すぐに準備をします。シャネイラにいい様に使われるのだけは気に入らないですけど」




「ありがとうございます、ラナンキュラス様。『黒の遺跡』へは王国からの馬車を使えるようにしております」





 カレンさんが危険な状況にあると聞いて、私も助けに行きたいと思った。だが、この会話に割って入ることはできなかった。


 戦いの場にいって私が何の役に立つだろうか? 足は引っ張っても貢献できることなどなにひとつ無い。そんな自分が悔しかった。





「グロイツェル様……。この男、スガワラを同行させてはなりませんか?」





 私はサージェ氏の言葉に耳を疑った。私が一緒に行きたい、と申し出ても逆に断られるのがオチだと思っていたからだ。




「サージェ、それはどういうことだ? スガワラ氏に戦いの心得があるようには思えないが……」




「勘です。勘……、なのですが、カレン様がよく言っていました。『勘は言葉で説明できない最良の選択』と。なぜか、自分はこの男が役に立ちそうな気がするのです」





「わっ、私も同行させてください!」





 今しかないと思った。




 自分で言っても無駄だと思ったが、味方してくれる人がいるなら話は違う。ただここに残ってカレンさんの――、ラナさんの無事を祈っているだけなんて絶対に嫌だ。




 ラナさんは私の申し出になにも言わず、自室の方へと歩いて行った。きっと着替えとかいろいろ準備があるのだろう。





「スガワラさん、あなたは恐らく戦いの経験はないでしょう。その(たい)が現しています。そして、今赴こうとしている場所は非常に危険なところです。同行するサージェやラナンキュラス様が必ずしもあなたを守れるとも限らない」




「自分の面倒くらい自分で見ます。荷物持ちでもなんでも――、できることは手伝います。ですから、どうか同行を許してください!」




「この男は自分が守ります。グロイツェル様、お願い致します」





 サージェ氏が私のために頭を下げくれている?




 とてもありがたいのだが、彼といつからこんな間柄になっただろう、という疑問もわいてくる。





 グロイツェル氏は、逞しい両の手を組んで考え込んでいる。私は頼むから、「うん」と頷いてくれと祈っていた。




「――わかりました。たしかにスガワラさんは我々にはない思考をお持ちの方だ。思わぬ突破口を見つけてくれる期待もある」




「ありがとうございます!」




「ですが……、隊の命令には必ず従うことです。私のギルドの人間でないあなたに私はなんの保証もできませんから」




「わかっています。足だけは引っ張らないようにします」





 私がグロイツェル氏に頭を下げていると、後ろに人の気配を感じた。顔を上げるとラナさんが初めて見る装いで立っていた。




 白黒を基調とした西洋の法衣に似た衣装。ただ、機能性重視なのか、下はパンツスタイルだ。フクロウをあしらった飾りのついた杖を両手に持っている。





「セントラル首席の者にのみ渡される『叡智の法衣』、特殊な加工をされた繊維は魔力増幅を助けると聞いています」




 グロイツェル氏がそう語った。




「この格好をすることは――、ないと思っていました」




 この装いは、ラナさんが「魔法使い」として動こうとしている証なのだろう。




「さぁ、一刻の時間も惜しいです。いきましょう」

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