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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第3章 友達
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第10話 黄昏の追憶(後)-2

 私が就職したのは、いわゆる「販売促進」を請け負う会社だ。




 商品はケータイ電話やクレジットカード、他にもインターネット契約から保険といった目に見えない商品も取り扱っていた。専任のスタッフを家電量販店や百貨店に派遣、もしくは常勤させる。ときには、ショッピングモールや駅前で、専用のブースを設けてイベントを行ったりもしていた。




 営業のノウハウは先輩社員から徹底的に叩き込まれた。あとは実践できるかどうかだったが、私はここでも「そつなくこなす」才能が活きてきたようだ。





 元々、アルバイトで接客業の経験があったのもよかったのか、とにかく「人と話す」この仕事は思った以上に私に向いているようだった。




 同期入社の中で、私の営業成績はずば抜けてよかった。先輩社員や営業課長からもずいぶんと褒められたものだ。調子に乗りやすい性格なのか、褒められるとより一層仕事に力が入った。




 その頃の私は、趣味がなくなっていた。夢破れたのが原因なのか、ただ大人になっただけなのか、幼い頃から好きだったテレビゲームもほとんどやらなくなっていた。




 私は仕事上、土日祝がいわゆる「稼ぎ時」になるため、休日もほとんどが平日だった。それゆえに休みの日に友人と会う機会も減っていった。




 休日にやることをなくした私は、すべての時間を仕事に注ぎ込むようになった。休みの日でも商品知識を頭に入れ、ときにはお客に扮して取り扱っている商品の接客を自ら受けにいったりもした。


 その甲斐あってか、営業成績もみるみる上がっていき、先輩や上司もそれをもてはやすようになった。





 入社早々、それなりの実績を残し、そこからさらに成績を上げていったことで、私は社内でちょっとした有名人になっていた。先輩社員たちは冗談のように「ゴールデンルーキー」などと言っていたが、私は半分本気にしながらそれを聞いていた。





『近いうちに正社員になれるんじゃない?』





 入社から1年を過ぎた頃になると、そんな話題がちらほら耳に入ってくるようになった。私はまんざらでもない気持ちだった。むしろ、今の私の実績なら当然だろう、くらいに思っていた。




 社会人1年目を過ぎると、学生時代の友人とのかかわりが希薄になりつつあった。当然だが、学生時代より時間的な余裕がなくなっている。人によっては転勤で遠く離れた場所で働いてもいた。




 友人との関係を軽んじるつもりはなかった。しかし、複数で集まろうとするとお互いの都合をつけるのが難しくなってくる。特にその原因の多くは、私の休日が合わないことだった。




 1年目のゴールデンウィーク、お盆休み、秋の祝日の重なり、年末年始……、そういった大型連休は私の仕事には無縁のものだ。むしろ、普段より忙しくなるのがその時だった。




 友人たちが揃って休みの中、私は都合を合わせにくい環境にあった。何度もそれを繰り返していくと、友人も私もお互いに日程を合わせるのが面倒になっていったのだ。




 そうこうして2年目に入ると、友人と集まろう、といった連絡自体が少なくなっていた。





 ただし、ヤスだけは例外だった。彼は他の友人との予定が合わなくても、私と1対1でも会ってくれようとした。夜間のわずかな時間でも、機会があれば時間を割いてくれた。


 そういう彼相手だからこそ、私もヤスとの予定に限っては多少の無理をしても時間をつくろうとした。




 ヤスとの会話はとても有意義だった。幼い頃からの付き合いゆえに心が知らぬ間に童心に戻れた。学生から社会人になっての環境の変化や戸惑いも共有できた。彼は、私の仕事がうまくいっているのを自分のことのように喜んでくれた。


 彼は誰もが知っている鉄道会社に就職していて、長い長い研修期間を経ている最中だった。




 お互いの近況報告を交わしながら、昔のバカ話に花を咲かせて、彼と過ごす時間はあっという間に過ぎていった。心がリフレッシュされて翌日からの仕事にも身が入るというものだ。

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