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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第3章 友達
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第9話 不感の才能(後)-2

 完全に油断してた。




 まさか試合開始直後に定位置から魔法を撃ってくるとは思わなかった。これは私の経験則からだ。




 普通は射程外になる。仮に届いたとしても狙いはでたらめになってしまう。威力も狙いも併せようものならそれなりの詠唱時間が必要になる。それがあったらこちらにも結界を張る余裕ができる。だから、どう考えてもいきなり魔法をぶっ放すなんて戦術は普通とらない。




 「普通」は……。




 パララ・サルーンは「普通」じゃなかった。ひょっとしたら今の一撃は避けなくても当たらなかったかもしれない。けど、冷静に判断するだけの余裕がなかった。あの威力、あの狙いがどうして今の詠唱時間でできるのよ……。




 いろいろと嫌な記憶が蘇ってくる。セントラルの時に見たあの子のことを……。技能試験を見て本能的に「敵わない」と思ってしまった自分のことを。





 だけど、今は違う。私は知恵の結晶で鍛えられた。魔法使いの精鋭が集うこのギルドで私の実力は認められた。




 「あの時」の私とはもう違う。




 冷静になろう。今の魔法は中級魔法「ブレイズ」。それを、威力を維持した状態でこの距離まで飛ばしたんだ。魔力の消耗はけっこうしてるはず。最初からそれなりに消費させただけでも、わずかに私が有利なはず。今みたいなのも連発できるわけないんだから。





◆◆◆





「――魔力の消費ですか?」




 私はオズの独り言を拾って尋ねてみた。




「ああ、聞こえましたか? そうです。『魔法使い』といっても休憩なしでいくらでも魔法を使えるわけではありません。使う魔法のランクや威力で異なりますが、今の一撃はそれなりに消費が激しかったんじゃないかと思いまして」




 PRGでも普通「MP」がある。魔法闘技は通常どれくらい魔法が飛び交うものなのかも話の流れで聞いてみた。




「決闘と4人制で異なってきますが――、1対1だと5、6発くらいだと思いますよ? お互いに乱発するような闘いはほとんどないと思います。あと補足ですが、上級魔法が使用されるのもあまり見ないですね」




「強い魔法は使わない、ということですか?」




「簡単に言うとそうです。魔法闘技は的に当てたら終わりなので、高火力の魔法を使う意味があまりないんですよ。逆に詠唱時間が必要な分、上級魔法を使う方が不利な側面もあります」




「なるほど、すぐに放てる弱い魔法を使う方が効率いいんですね?」




「そうなりますね。魔法使いて、普段は剣士とかと編成を組んで戦うもので、ある程度守られてるんです。隙が大きい上級魔法を使えるのはそういう条件が整ってるとき。ですから、魔法使いだけで闘うここはかなり特殊なんですよ」




 つまりは、あまり実戦的ではない「闘い」なのか。――となると、魔法闘技に強い魔法使いと魔法ギルドが重宝する魔法使いは別物なのかもしれない。




「あえて高火力を使うのは、先日見たように結界でがっちりガードを固められた場合とかですかね。それでも詠唱時間が長いと前回みたいに反撃をくらったり、結界自体も厚めに張れますから……。よほど詠唱速度に自信がないと使えないですよ」




 今の話を理解すればするほど、私はラナさんを思い浮かべてしまう。シャネイラさんはたしか、彼女について「多くの魔法で詠唱過程を必要としない」と言っていた。魔法使いにとってこのアドバンテージは相当大きいのだと思った。





◆◆◆





 パララ・サルーンの魔法系統は火属性と弱体・妨害系だったはず。ただ、弱体系の魔法は射程が短いから、かなりの接近戦にならなければ出番はない。だから、主に使ってくるのは火属性の魔法。




 これは私が扱う系統と同じだ。




 威力の低い魔法ならいつでも放てる準備をしつつ、少しずつ距離を詰めていく。さすがにもう遠距離では撃ってこないみたいだ。




 最初のは不意をつくつもりだったのかしら?




 ただ、あの子の詠唱速度は私の予想よりずっと早かった。魔法発動の予兆を見逃さないようにしないと危ない。




 私は左側、あの子から見て右手側から小走りで距離を詰めていった。向こうも今はさすがに初期位置から離れている。こちらを見ながら少しずつ近寄ってきていた。




 そして、下級魔法の射程ギリギリのところで動きを止めた。もう一歩踏み込めば、下級魔法とともに多くの火属性魔法が射程に入る。魔力によって距離を延ばすこともできるが、むやみに消耗するような闘い方はしてこないはずだ。




 この距離になるとパララ・サルーンの表情を窺うことができた。真っすぐと私を直視してくる目には怯えの色が一切ない。




 そうだ……。この子はいつも、おどおどして隅っこに隠れているような子なのに、魔法の実技の時だけは豹変するんだった。




 目が合ったと思った刹那、魔力の収束する気配を感じた。あの子は両手に杖を握ったまま勢いよくこちらに向かって走ってくる。その勢いに頭の三角帽子はついてこれなかったのか、それだけが離れて宙に舞って飛ばされていった。





「フレイムカーテンっ!!」





 前方を気にしていたのに予想外のことが起こった。




 パララ・サルーンの魔法は、私の背中に炎の幕を張った。詠唱から発動にずれが生じるため、直接ぶつけるには不向きな魔法だ。




 背後から暖かい空気が流れてくる。これで距離を取り直すには迂回しないといけなくなった。あの子は一気にここで勝負をつける気でいる。




 けど、退路を塞いだ一手の隙を私は逃さない。




「さっきのお返しよ! ブレイズ!!」




 詠唱を最速で、私は中級魔法を放った。




 両手で握った杖の先から炎の閃光が放たれる。




 このタイミングでもパララ・サルーンなら咄嗟に結界を張ると思った。だから簡単な防御くらいなら突き破れる威力の魔法を放つ。私ならこの距離、確実に的に当てられる!

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