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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第3章 友達
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第9話 不感の才能(前)-6

 これは3日前の酒場でのやりとりだ。






「パララさんがアレンビーと決闘っ!?」




 数日前、オズワルド氏に魔法闘技場に案内してもらってなければこんなにびっくりはしなかっただろう。偶然にも魔法闘技についても、魔法使いのアレンビーについても知っていたので、シンプルな驚きがやってきた。




「スガも魔法闘技については知ってるんだ? それなら話は早いね。いやぁ、私もこれにはびっくりだよ。それもアレンビーがパララちゃんを指名してるんだよね?」




 お客の数が少なくなった時間帯、カレンさんはカウンターで語ってくれた。閉店時間が近づいており、常連客の大半はすでに帰っている。彼女との飲み比べで潰された男性客が2名ほど後ろの席でぐったりしているくらいだ。その席に水を運んできたラナさんが問いかける。




「パララって選手登録してるんでしたっけ?」




 ラナさんの方に振り返ったカレンさんは大袈裟に両手を広げて答えた。




「いいや、今回の決闘を受けて慌てて手続きしたみたいだよ? まぁ登録料さえ払えばわりとすぐにやってくれるみたいだけどねぇ」




「あのアレンビーと、パララさんは知り合いなんでしょうか?」




 私は最初に過った疑問をぶつけてみた。




「うちのギルドの連中の話だと、ふたりは魔法学校の同期らしいね。パララちゃんから直接聞いてないからあんまり詳しくは知らないけど」




 ふたりは同級生なのか。友達同士でお互いに魔法ギルドに入ったら闘う約束をしていたとか? いや、それで「決闘」とはあまりに穏やかではない。




「しかし、なんというか……、よくパララさんもその決闘、受けましたね」




 私のもっているパララさんのイメージだと、あんなに人の多い闘技場の中央に立とうものなら卒倒してしまいそうな気がした。




「私もそこに一番驚いたよ。アレンビーと学生時代になんかあったのかねぇ……。パララちゃんが受けるって言うんなら別に口を挟むつもりはないけどさ」




 やはりカレンさんもそこが一番の疑問のようだ。それは私も同じだった。




「それでさ。みんなで応援にいかないかい? 日程がちょうど次の酒場が休みの日になっててね……。実は『天覧席』のチケットもあるんだよね」




 「天覧席」、いわゆるVIP席のようなものだろうか。あの規模の闘技場ならそんな席も設けてあるのだろう。ただ、次の酒場の休みの日というと、オズワルド氏と約束した日でもある。




「行きたいのは山々だけど……、魔法闘技は魔法ギルドの関係者がたくさん来るでしょう?」




 ラナさんはいつものように左手の人差し指を唇に当てながら軽く上を向いていた。考え事をしている時のいつもの癖だ。




「ラナは魔法ギルド界隈では今でも『超』がつく有名人だからねぇ。顔見られるのが嫌ならうちのギルドにある変装道具でも持ってこようか?」




「そこまでしなくてもいいわよ。ローブでも被ってたら大丈夫かしら?」




「魔法使いはローブ被ってても別に普通だからねぇ。顔隠すくらいならそれで十分と思うよ? もし心配ならハゲ頭のかつらと付け髭でも借りてこようか?」




 カレンさんの発言に思わず私は吹き出してしまった。




 そんな隠し芸大会で使うような道具がギルドに常備されていたりするのか? 




 ましてやそれをラナさんが付けると思うと顔がにやけてしまう。




「ちょっと……、スガさん?」




「はい、なんでもありません。――というか、ごめんなさい」




「まったくもう! カレンが変なこと言うからですよ?」




 ラナさんがいつもより微妙に低い声で呼ぶのでちょっとだけ怖かった。




「そう言うカレンこそ大丈夫なの? ギルドの仕事とかあるでしょ?」




「私は大丈夫だよ。その日は大した任務がないからサージェと隊の奴らに任せることにした」




 話を聞きながら、カレンさんの下できっとサージェ氏は苦労してるんだろうな、と私は思った。




「スガはどうだい? 一緒に来れる?」




「えっと…せっかくなんですが、その日は先約がありまして……。ただ、闘技場の近くに行く予定ですから、私は私で行こうかと思います」




「なんだい、城下でデートの約束でもしてるのかい?」




「ちっ…違いますよ。なんていうか、その…『友人』との約束です」




 オズワルド氏のことを咄嗟になんと表現していいかわからず、「友人」と言ってしまった。彼は私の友人なのか?




「ふーん、それなら仕方ないね。友達は大事にしないと」




「せっかく誘ってもらったのにすみません。友人と一緒にいけるか話してみます」




「気にしなくていいよ……。ブルードさんはどうかな?」




「オレは……、パララちゃんの決闘なんてまともに見ていられる気がしない。取り乱しそうだから大人しくしていようと思う」




 パララさん絡みになるとブルードさんは完全に「お父さん化」している気がする。




「ああ、そう……。それなら私とラナのふたりで行こうか。うちのギルドから譲ってもらったチケットだけど、他には誰も来ないから安心して」




 カレンさんはさらりとこう言ったが、きっとシャネイラさんがいないことを伝えたかったのだと思う。




「そうね……。パララの決闘にはちょっぴり驚きだけど、たまにはカレンとふたりでお出かけも悪くないかもしれないわね」




 ラナさんは穏やかな微笑みを向けてそう言った。

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