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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第3章 友達
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第9話 不感の才能(前)-2

「トゥインクルでパララちゃん、けっこう評判よくってさ」




 夜遅めの時間帯、カレンさんはいつものカウンター席でお酒を飲みながら話をしてくれた。




 「トゥインクル」とはパララさんが所属している魔法ギルドの名前だ。カレンさん所属の「ブレイヴ・ピラー」と交流の深いところのようで、互いに人員の融通や依頼の協力をしているという。




「笑っちゃうようなドタバタ劇も耳にするけどね……、ククっ。それでもやっぱり魔法の実力はたしかみたいだねぇ」




 カレンさんは思い出し笑いを堪えるようにしてそう言った。




「それはよかったです。いろいろありましたが、立派に魔法使いとして活躍されてるんですね」




 「ドタバタ劇」の中身にも興味はあったが、あえてそこは聞かなかった。カウンターで話を聞いていたブルードさんも、うんうんと頷いていた。パララさんの話を聞いている時の彼は、愛娘を案ずる父親のようだ。


 実績を積んで自信がつけば、あの過度に自分を卑下してしまう性格も変わっていくのではないだろうか。





「元々、魔力や技術はとても優れた能力があったわけですから。発揮する場に恵まれなかっただけですよ」




 ラナさんもとても機嫌よさそうに話を聞いている。パララさんが初めてここに来た時がもうずいぶん前のように感じられた。実際にはそれほど長い期間が経ったわけではなかったが、彼女を取り巻く出来事は一つひとつが深く記憶に刻まれていた。




 しかし、その後、彼女の姿をこれまで以上に、色濃く鮮明に焼き付けることになるとは思ってもみなかった。





◆◆◆





 シャネイラさんの紹介で魔法ギルド「トゥインクル」に所属してから私はさまざまな依頼をこなしていきました。




 最初、同じギルドの方々には、ブレイヴ・ピラーのギルドマスター、シャネイラ様直々の紹介、ということでかなり構えた様子で迎えられました。




 ですが、最初の挨拶の時、私のぎこちない話し方を聞いて皆さんは笑っていました。私はとても恥ずかしかったのですが、トゥインクルの皆さんは、それで緊張がほぐれた、と後に話してくれました。




 私を「新米魔法使い」として隊に入れてくれ、手取り足取り日々の仕事について教えてくれました。このギルドはブレイヴ・ピラーからの応援要請がとても多く、いろんな剣士の方と連携する依頼がほとんどでした。


 ですが、トゥインクルの先輩方がしっかりとフォローをしてくれるおかげで、今まで苦手だった連携しての任務も徐々にこなせるようになっていきました。





「パララさんの詠唱速度と魔力はずば抜けてるね。ちょっとずつだけど、今まで他のギルドにまわされてたような依頼もこっちに流れてきてるよ。さすがあの『不死鳥』からの推薦ってだけのことはあるね!」





 トゥインクルの皆さんが私を褒めてくれるのがとても嬉しかった。




 私がここに所属してから自分に言い聞かせてきたのは2つ……、どんな依頼でも手が空いていたらなるべく率先して受けにいくこと、もう1つは挑む前からできないような発言は絶対にしないこと、でした。




 特に2つ目の方は、ラナさんとユタタさんが私に指導をしてくれたあの時から自分に言い聞かせてきました。今でも任務の前は緊張して逃げ出したくなりますが、少しずつその感情に打ち勝てるようにもなってきています。




 そのおかげなのか、ギルドの皆さんからちょっとずつ頼られるようになってきていると感じています。





 そんなある日、トゥインクルのギルドマスターから呼び出しがありました。私ひとりだけがマスターに呼ばれた経験はこれまでありませんでしたので、なにか任務で失敗してしまったのかと冷や冷やしていました。




 ギルドマスターの「マヒロ様」は、40過ぎくらいの優しさがにじみ出たお顔をされた男の方です。とても身長が高いのですが、威圧感は全然ありません。年齢のわりに白髪が多くなってきた、と気にされているとギルドの方々が言っていました。





 マヒロ様の部屋の扉をノックして中へ入ります。




「ああ、パララさん。突然呼び出してしまってすみません」




「いっ…いいえ。だ大丈夫です。きっ…今日はどういったお話でしょうか?」




 私はいつも優しいマヒロ様に説教されるのではないか、と内心思っていました。ここ最近の依頼でなにか失敗した記憶はなかったのですが、私だけが呼び出されるなんてやっぱり普通ではありません。無意識に下を向いてしまっていました。





「ええとですね……。『アレンビー・ラドクリフ』という魔法使いをご存知ですか?」





 予想外の名前が飛び出して、私はびっくりしました。




「あっ…アレンビーさんは、その…魔法学校時代の同級生です!」




 彼女のことはよく覚えています。同期の中でもとっても優秀で、美人で面倒見もよくって、みんなの憧れになっていた方です。




 たしか推薦で「知恵の結晶」に入った話を聞いていました。校内でとても有名な方でしたので、覚えていましたが、残念ながら同級生としての交流はほとんどありません。




「うん……。そのアレンビーさんがですね。パララさんに魔法闘技の決闘を申し込んできてるんですよ」




「けっ…決闘!?」




 私は大きな声を出してしまい、慌てて両手で口を塞ぎました。もう手遅れでしたが……。





 「魔法闘技」については知っていました。魔法学校の授業の中で、魔法闘技のルールを用いた模擬戦なんかもあります。ですが、アレンビーさんが私宛に決闘の申し込み、というのはよくわかりませんでした。




「魔法ギルドに登録ある人へならたしかに決闘の申し込みはできますが、パララさんは選手の登録をしておりません。もし決闘を受けるというなら選手登録を至急済ませないといけないのですが――」




 マヒロ様は、私に心当たりがあるのかを表情と話し方で問うているようです。そして、その答えは「いいえ」でした。




 あのアレンビーさんがどうして私に?




 なにかの間違いかと思いました。でも、そんな間違いってあるのかな?




「あっ……、あのアレンビーさんに確認してからお返事しても構いませんか?」




「もちろんそれで結構です。なんならこちらから連絡をとりましょうか? 知恵の結晶へなら写し紙を使っての連絡がとれますよ?」




「でっ…でしたら、ぜひ! おっ…お願いします!」




 私はマヒロ様に頼んでアレンビーさんと会う約束をとりつけてもらいました。学内でもそれほどお話した記憶がありません。同級生だというのにまるで任務前のように緊張している自分がいました。

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