第8話 会話の産物(前)-3
オズワルド氏に連れられて城下町を歩く。石畳の街路を踏みながら、眼前にある王城のシルエットが少しずつ近づいてきていた。
天気は相変わらずの曇り模様だ。商店の並びをいくつか曲がり、視界の正面から王城が消えたかと思うと急に開けた場所に出た。そこには野球場のような大きな建物がそびえ立っていた。
「着きましたよ。『魔法闘技場』です」
闘技場か……、なるほど。たしかに世界史の授業で見たコロシアムのように見えなくもない。名前の通りならこの中で魔法使いが闘っているのだろうか?
「その顔は、やはりここに来るのは初めてみたいですね?」
「はい、これはどういった施設なんですか?」
名前から察するところはあるが、とりあえず聞いてみることにする。
「説明するより見るが早いと思いますよ。入場料は安いものですが……、せっかくなので今日は私が2枚買ってきますよ」
彼はそう言うと私の返事を待たずに、建物前にいくつか並んだチケット売り場に駆けていった。そして時間をおかずに駆け足で戻ってきた。彼から紙のチケットを受け取り礼を伝える。
「お気になさらず。コーヒー1杯よりも安いものですから」
再び彼に連れられて闘技場の入り口にいる受付の女性にチケットを渡し、入口の門をくぐる。すると、中に入ってすぐT字路のように廊下が分かれているところに行きついた。
「今日は左にいきましょうか」
彼は左へと進んでいった。ホームとアウェイで応援席が分かれているのだろうか?よくわからないまま私も彼の後を追って左側の廊下を進む。
外で観戦している人の声だろうか、たくさんの人の声が混ざり合い反響して聴こえてきた。少し歩くと上り階段が続き、それを抜けると階段状に並んだ座席が広がっていた。
大きな声援が耳に飛び込んできた。
満席――、とまではいかないが、座席には大勢の人が座っている。そしてその視線の先には野球場に似た菱形のフィールドが広がっていた。ここが「闘技場」だろうか?
「前の立ち見のとこまでいきましょう。そっちの方がよく見えますよ」
オズワルド氏は座席の側面にある階段を下って行った。私はきょろきょろと周りの様子を見ながら彼を追っていく。一番前はそれなりの人だかりができていた。それでも闘技場の様子を見る邪魔になるほどではない。この雰囲気は「野球場」というよりも「競馬場」に近い気がした。
「この試合はもう大詰めのようですね」
闘技場に目をやると、2人の魔法使いとおぼしき人が両手に杖を持って駆けまわっている。そして、その杖の先から突然火の玉が飛び出した。お化け屋敷で見る人魂の超巨大版のようだ。
人が使う「魔法」を初めてこの目で見た瞬間だった。
巨大な火の玉が出現したかと思うと、中空に現れた氷の塊がそれをかき消した。私の人生経験のなかで今見ている光景は、テレビやゲームの中でしか存在しないはずの超常現象だ。
あまりの衝撃に目が釘付けになっていたのだが、急に闘技場の魔法使いは2人とも動きを止めた。
「決着がつきましたね」
オズワルド氏はそう言った。ただ、私から見る限り、2人の魔法使いはどちらも無傷だ。決着は、「相手を倒す」ではなく別のルールがあるのだろうか? この時の私はよほど驚いたような顔をしていたのか、彼は笑いながら話しかけてきた。
「初めてでしたら驚きますよね? ここは魔法使いが技量を競い合う場所なんですが、同時に賭け事の場でもあるんです」
賭け事? 意外な言葉が飛び出した。いよいよ競馬・競輪の類の気がしてきた。オズワルド氏はこの闘技場、そして「魔法闘技」について詳しく説明してくれた。




