◆第7話 ケの日-1
酒場の席でラナさんとカレンさんが言い争っていた。
パララさんとサージェ氏もその場にいた。
さらにブルードさんとリンカさんまでもが腕組みしてこの争いの渦中にいた。
サージェ氏はともかく、パララさんが険しい表情をしているのを私は初めて見たかもしれない。どうしてこんなことになってしまったのか……。
理由ははっきりしていた。まさかこんなことになるなんてとても想像できなかった。残念ながらすべての原因をつくったのは私だった。
◇◇◇
酒場の仕事を数日休ませてもらっていたが、怪我が完治してからすぐに復帰した。最初はラナさんもブルードさんも仕事を頼むのを遠慮しているところがあった。だが、私が今まで通り働けるとわかると次第にそれもなくなっていった。これまでと同じ日常を取り戻せたのが私は嬉しかった。
そして酒場の定休日、この日は午前中に自分宛の仕事を受けて中央市場に向かった。
ラナさんの酒場は週に1日だけ、完全に閉めている日がある。私宛の仕事はなるべくここに合わせようとしているのだが、正直あまりうまくいっていない。だが、今回引き受けた仕事はたまたま依頼主との希望の日が一致したのだ。
その日は夜に酒場で私の復帰祝いの食事会を開いてくれる予定にもなっていた。
ラナさんとカレンさんが中心になって先日の一件に関わってくれたパララさん、ブルードさん、サージェ氏にリンカさんも来てくれる予定だ。ラナさんに、そこまでしてもらわなくても――、と言うとこう返ってきた。
「ちょっと大袈裟なくらいに復帰のお祝いをしたら、次からスガさんが無茶することもなくなるだろうってカレンが言ってましたよ?」
ラナさんもその意見に賛成なのだろう。にこにこしながら話してくれた。いろいろと計算ずくでのお祝いみたいなので素直に受け入れようと思った。
ゆえに今日の仕事はしっかり成果を出して遅くならないうちに酒場に戻るつもりでいた。
今回の内容は、アクセサリーの販売だ。依頼主はクドゥさんという酒場にも時々やってくる男性だ。歳は30の前半くらいだろうか――、かなり瘦せ型の体系をしている人で身長は私よりやや低いくらい。けれど横幅があまりないせいか、妙に縦長に見える人だ。
彼はラナさんの酒場から少し離れたところにアクセサリーの店舗を構えている。だが、今日の仕事場はそこではない。
城下町の中央市場にレンタルスペースのような土地がある。大通りの目立つ場所にあり、一定の額を収めるとそこで露店を出すことができる仕組みだ。彼はそこを1週間ほど借りて、アクセサリーの露店を出したのだが、如何せん商品の売れ行きがよくないらしい。
このままでは土地のレンタル料で赤字に終わってしまいそうなので、販売の協力をしてほしい、と依頼が入ったわけだ。
私はこの依頼を二つ返事で引き受けた。こちらの世界にくる前、ショッピングモールなどの様々な施設で、臨時ブースを設けて新商品の販売を手掛けたりした経験がある。ようは今回の依頼は、過去の経験を非常に活かしやすい内容なのだ。
今後こういう仕事を増やしていきたい、という思惑もあって非常にありがたかった。クドゥさんとは現地で合流する手はずになっている。国の中心街に来るのはいつかのハンスさんと行った競り市以来だ。あの時同様スーツに袖を通してきた。
クドゥさんとはすぐに合流できた。彼は簡易なテントの下に商品を準備していた。
「やぁスガワラさん、待ってましたよ」
「おはようございます、クドゥさん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、期待してますよ」
クドゥさんは腰が低い人で3度ほど私に頭を下げた。予め商品の説明は聞いている。普段から店舗に並べているアクセサリーもあるが、今回露店を出したのは特別な商品を売りたいからだった。
それは精霊石でつくられたペンダント。
「精霊石」は、石そのものに特殊な力が宿っているという。
その中にもいくつか種類があるそうだが、今回クドゥさんが扱っているのは魔除けの効果がある石だ。
「魔鉱石」と似ているが、あちらはいわゆるエネルギー源となる役割が主であり、精霊石は「石」そのものにそれぞれの特殊な力が秘められている。
見た目はサファイアのような澄んだ青色をしていて、それだけでも価値があるように思える。また、その頑丈さも宝石並みで、非常に硬く欠けたりすることはほとんどないらしい。




