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メイドの懺悔①

 手紙には、『ルルカリア嬢を返してほしくば、ミッドナイト領郊外の洞窟にて待つ』と、簡略に書かれてありました。差出人と宛名まで律義に書かれてあります。前者はあのキリカナンの名前が。そして、後者には『生意気な給仕、アリス』と私の名前が刻まれていました。ふざけた事をするものです。恐らくは、私への報復をしに来たつもりなのでしょうが、まさかお嬢様を人質に取るだなんて。


 それに、気掛かりなのは、お嬢様の行方です。確か、キリカナンはステンノーさんに見せて貰った結晶の中では、名の知れぬ女性と共に行動し、その目的はお嬢様の身柄の確保だと言っていました。では、確保されたお嬢様の身柄が指定された場所にあるとは思えないのです。仲間の元へ送還していると思うのが妥当。しかし、他に探す宛てが無かったので、明らかな釣り餌に喰いかかるしかありませんでした。


 洞窟の外から生体感知を発動させて、それにお嬢様が引っ掛からなければ引き返せばいいだけの事。そう思い、一先ず誘いに乗ってやろうと部屋に戻って支度をしようとしていた時でした。


「……………………」


 私の部屋の前で、牢獄に監禁されているはずのメイド長が待ち構えていました。どうやら早めに聴取が終わったようです。まぁ、まさかメイド長がお嬢様の失踪に手引きした筈がないと信じていたので、無罪が認められ、この場に立っているのは当然と言えるのですが、一先ず心の中で安堵の息を吐きました。


「どうしたのですか? ジゼルさん、何かお話でも?」


 瞑目したまま、佇むメイド長に声を掛けます。何やら辛気臭い雰囲気を感じました。メイド長さんが何か悩んでいるのなら、普段であれば何時でもお話ぐらいは聞けるのですが、今は時が時です。もたもたしてないで、早く要件を言って欲しいですね。


 ――私、今すこぶる機嫌が良くないので。


 いつもの似非方言が抜けた言葉で、メイド長は語り出しました。


「……アリス、貴女にお願いがあって来ました。その前に、不肖なる私の懺悔を聞いて欲しいのです」

「前置きは良いです。話すなら早くしてください」

「……これはごめんなさい。今は一刻を争う状況でしたね」


 メイド長は、気まずそうに俯きました。暫くして見上げたその顔は、まるで罪を懺悔する修道女かのような面持ちでした。


「……私は、貴女に妬いておりました。長年、ミッドナイト家に仕えてきた私でしたが、貴女程に主からの信頼を得ていた事はありません……」

「……意外でした。ジゼルさんがそんな事を考えていただなんて。ですが、それは自己否定が過ぎませんか? 貴女は私なんかより断然信頼されていますよ……」


 励まし一割、そして本心九割の言葉でした。しかし、メイド長はそれを無視して続けます。 


「貴女が失踪していた九か月間。お嬢様の御様子は、それはそれは深刻に沈んでいきました。私には、その様子を見ている事しか出来ませんでした。しかし、貴女が戻ってからのお嬢様は、急速に息を吹き返したかの様でした。それに、酷く嫉妬してしまったのです」


 バツの悪そうに眼を背けるメイド長。しかし、その懺悔だけは続きました。


「……私は、メイド長失格です。もう、疲れたのです。この件が無事に解決次第、私はこの役目を降りさせて頂こうと思います」

「…………そうですか」


 納得は出来ないし、寂しさもあります。だけど、『疲れた』だなんて言われたら、どうして断れましょうか。それに、その判断は私が下すものではないでしょうから。


「アリス……さん。貴女に、お願いしたい事が御座います。長くは言いません、ただ一言だけ。どうか、どうかお嬢様を、宜しくお願い致します」

「……はい」


 私は、曖昧に頷く他ありませんでした。何せ、本当に懺悔をするべきは貴女では無く、”私の方”なのですから。

 


 ――私は、本当はお嬢様の傍に居ていい人間では無いのです。

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