お嬢様とデート②
前と同じ様に、色々な屋台で珍しい物を見たり、美味しいデザートを頂いたりして、デートを楽しみます。お互いに新しい物を見たいというよりは、慣れ親しんだ物に安心感を覚えるタイプの様で、初めてお嬢様とお出掛けしたあの時とほぼ同じ屋台を同じ順番で回っていきました。その間、お嬢様はずっと私の腕に抱きついたままでした。ふと気になって、お嬢様の方を覗くと、私の方が背が高いことから、必然的にお嬢様が見上げてくる形になります。その時の、円らな瞳がもうほんとに破壊力凄くて……
お嬢様ほどになれば視線だけで、私の息の根を止められそうですね。なんてくだらない事を考えながら、私達は街の奥へ奥へと歩を進めていきました。
相変わらず此方を見つめてくる街の人達の視線には慣れませんが、ジロジロとお嬢様を見られるのも何だか気分が悪かったので、特に視線が集まる場では、お嬢様の身体を引き寄せて腕で覆い、なるべく見られない様に遮断しました。その時のお嬢様ったら、恥ずかし気に俯いて、はぅぅ、とか空気の漏れた様な声を出すんです。幸い、嫌がっていない事だけは分かったのですが、私なんかにそんなキザな事されても、そりゃ困りますよね……?
これにはちょっとした嗜虐心からの悪戯と、お嬢様を渡したくないという強烈な独占欲が働いていましたが、少し反省です。
やがて、屋台を全て見回った頃、時刻は夕暮れ時に差し掛かっていました。場所は変わり、あの時一緒に夕陽を眺めた海岸にやって来ました。そして、脚が疲れたのかお嬢様が腰掛けようとした所で、慌ててその身体を支えます。
綺麗なお洋服を海辺の砂とはいえ、汚させる訳には行きません。すると、お嬢様は言いました。
「じゃあ、アリスが私の椅子になって?」
遅れて意味を理解した私は、戸惑いながらも、役得だと思い、胡座を掻いて座りました。その上に、お嬢様を乗せる形で抱き寄せます。
そして、お嬢様は視線を朱く照り輝く夕陽の方へと向けました。
「綺麗ね」
いつかと同じ感想。あの時は、気不味さのあまり私の口から、出た適当な言葉でしたが、お嬢様が言うと、それは色褪せる事のない素敵な言葉の様に思えました。
「はい。そうですね。本当に……綺麗です」
その時、私は自然とお嬢様の横顔を見つめながら切なく言いました。これは、自分でも意図せずの行動であり、台詞と相まって恥ずかしさが爆発します。しかし、幸い。お嬢様は夕陽を見つめたままでした。
「あ! あそこに、女の人同士で抱き合ってる人がいる〜!!」
突然、天真爛漫な声で叫んだのは、後ろの方で私達を見ていた一人の少女でした。その傍には手を繋いだ母親と思わしき女性が佇んでおり、娘の突然の言動に戸惑いながらも、諌めている様でした。
「……あっ」
「……あはは」
少女の言葉で、お互いの距離を再意識した私達は、お互いに違う方向へ顔を背け、熱を出して赤面しているであろう事への言い訳を、夕陽の眩しさの所為にするのでした。




