お嬢様とデート①
帰還して一週間ほどが経過しました。あの後色々と騒がれ、メイドの存続手続きなどで忙しく、公爵様に散々怒られたりと、まぁとにかく大変でした。一番苦虫を噛んだのは、お嬢様の部屋の天井をぶち破った事ですね。修理がなんたらその費用がなんたらと、ガミガミがみがみ言われました。危うくお給料から差し引かれそうになった所、お嬢様が自費で受け持つとか言い出すものですから、その場は余計荒れていきました。最終的には、公爵様も娘のお嬢様には押し負けて、公爵様自身の自費で修理代を払っていました。私としては、とても頭が上がりませんね。
そして、漸く落ち着いた所で、私は改めてお嬢様からの呼び出しを受けました。というのも、あれから四六時中、毎日の様にお嬢様に付き纏われていて、三日ほど前から、本日の午後から街へ下りるとお誘いを受けていました。いつぞやの、デートを思い出しますね。そんな、私の想念が顔に出ていたのか、揶揄うようにしてお嬢様は言いました。
「これって、何だかデートのお誘いみたいですわね」
突然の爆弾発言に、お茶を吹いた私でした。気の所為か、そう言って俯いたお嬢様が、赤面している様に見えた時は、思わずズキュンと来ました。
そんな訳で、私は今お嬢様と共に、街へ出ていました。ちゃんと変装はしたんです。公爵家の令嬢ってバレると色々めんどくさいでしょう? 身分が高い事を悟らせるわけにも行かないので、今はメイドでは無く、あくまで付添人を演じています。格好だってラフで自然なものを選びました。
だのに、私達は通りすがる人達から、好奇の視線に晒されていました。というのも、お嬢様が、如何にも高級そうな生地で出来た服装を纏っていました。ふわふわのシャツとブリーツスカートを履いたお嬢様は、可愛らしさが溢れており、元々の綺麗な容姿も相まって、抜群の破壊力を持っていました。遠目に見る街の男性達の中から、鼻血を吹いて気絶する者まで現れます。
――何勝手に、お嬢様みてんだコラ。とは、心の中に閉まっておいた殺意の声ですが、鼻血を吹いた彼が、そうなる気持ちも分かります。はい、隣に立つ私が一番理解できていますとも。
正直綺麗すぎて直視出来ないと思います。ギャップがすごいんですよギャップが。ゲームでも、こんな砕けた格好をしたお嬢様はお目にかかれませんでした。お嬢様が綺麗という理由だけでも、視線が集まる理由にはなりますが、もう一つ私達が視線を向けられる原因がありました。それは――
「なによ、あの人達。私のアリスに嫌らしい視線を向けちゃって。アリスは私の”モノ”よ」
視線を向けて来る街の人に睨みを返しながら、お嬢様は私の腕に抱き着いたままでした。そう、今も街の人達から視線を向けられる原因は、この、まるでお気に入りを見つけた猫の如く私に抱き着いたまま離れないお嬢様の奇行にありました。
「……えっと、多分あの方々は、私じゃなくてお嬢様を見てるんです……っていうか、そろそろ放してもらえません?」
「ダメよ! ここで、アリスを放してしまったら、また何処かに行ってしまいそうで……」
そう言われると、罪悪感が湧いてきます。私は、お嬢様の背中を手を掴んで引き寄せながら言いました。
「行きませんから……万が一こんな街中でお嬢様を野放しにしてしまったら、私の首が飛んでしまいます……物理的に」
「なら、どうして今も、私から眼を逸らすの? 今日、一度も視線を合わせてくれないじゃない」
「……そ、それは。その、お嬢様があまりに御綺麗で、直視できないと言いますか……」
すると、お嬢様は両手で私の顔を固定して、無理やり自分の眼に合わせるよう、引っ張りました。
「――あっ」
「 ふふっ、そんなに褒められるなんて嬉しいわ。今日の為に、メイド長が直々に服を見繕ってくれたの。貴女にだけ見せる姿だから、ちゃんと私を見て、眼を逸らさないでね?」
そう言って微笑むお嬢様が、形容出来ないほどに美しくて――
「……はい」
私は、ただただ見惚れていたのでした。




