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心に空いた穴② side ルルカ

 半年が経過した頃。私は諦める様になりました。アリスに限らず、あらゆる事に対してです。王都にある国内最大の『レインガル学園』と呼ばれる学舎へと通う事になったのも、その頃からです。


 正直言って、憂鬱より、どうでもいいが勝りました。入学すると、予想通り私の姿を見た他の貴族子息、令嬢達からこそこそと、囁く声が聞こえて来ます。


 私への侮蔑が込められた視線を向けて呟いているのです。辛うじて聞こえてくるのは、私を『捨てられ令嬢』だとか『傷物令嬢』だと侮蔑する声でしょうか。

 第一王子アルシェードに婚約破棄を申し出たのは私の方からなのですが、彼らの中では私が、捨てられたという事になっているそうです。


 それに関しては呆れつつも、今更なんやかんや言うつもりはありません。あのまま婚約関係が続いていても、最終的に私は捨てられて断罪されるのが終いなのですから。


 その本人であるアルシェード様の御姿は、終始見る事はありませんでしたが、代わりに双子の弟君である第二王子のカイル様が新入生代表として、教壇に立ち、饒舌に挨拶という名の演説をしていました。


 ですが、その辺は私には関係ありませんね。如何でもいいです。心底どうでもいいです。誰がどう私に好奇や憐憫の視線を向けようが、黙り込んで言い返さない私を見て、私より身分が下の子爵家の令嬢が、調子に乗って幼稚な悪戯をしようが、それを見て見ぬ振りして嗜虐心をそそられる教師が俗な眼を向けてこようが私には関係のない事で、心底興味がないのです。


 ――所詮、此処には私の味方が一人もいないのですから。


 ★☆★☆★☆


 入学後、三カ月が経ち、夏季の休暇が入った事で、実家であるミッドナイト領に戻っていた時の事でした。その日も、いつも通り何を食べても味がしませんでした。身嗜みを整える気力も無く、一日中部屋に立て籠っては日を拒みます。


 力無く布団に項垂れて、温もりが恋しくて枕を抱きながら、私は零れ出た涙を野放しにします。


 ……最初は『切なる願い』でした。満たしようの無く、底を突いても零れ出る不安を払拭したくて、その名を呟いていました。


「……アリス」


 それは、次第に落胆となり、叶わぬ願いであると悟り始めると、『呪い』となって、私の心を抉り蝕む言葉となりました。


 それでも、


「アリス……アリス、アリス……」


 一度、呟けばそれは止まらなくなりました。先に涙が枯れ、お腹が悲鳴を挙げても、言葉を紡ぎ、挙句に喉が潰れても声を絞り出しました。


 分かっているんです。無駄だって……そんな事、言われなくたって……

 だけど、それでも……溢れ出て、止めようがなくて、仕方がないではありませんか……。


 お願い……お願い、お願い……


 もう一度、もう一度だけでいいの。


 もう一度だけ、貴女の声を……聞かせて欲しいだけなの。


 

 








 ――もしかして、ここで全てを投げ出せば、また貴女に会えるのでしょうか……?




 そう思い、私は立ち上がって窓の方へ歩き出そうとした時でした。


 

 突然、光の遮られたこの部屋に、一筋の光が射し込みました。


 

 「……あっ」


 そして、光が消えると共に、私の待ち望んでいた『希望《光》』が、降り注いだのです。

 

 

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