レベル120まで周回RTAしろってさ
翌日、目が覚めたら、自室のベッドの上でした。どうやら、あれから力を使い果たした私は、精神的にも肉体的にも限界が来て気絶していたみたいです。起き上がった私は、あれからの事について、傍に居た何故か無傷のメドゥーサちゃんに訊きました。
「勝負に勝ったのはアナタよ。私が無傷でいる回答については、『脱皮したから』という回答で十分かしら?」
「は、はぁ……」
まぁ、あれぐらいでこの人? が死ぬとは思えませんが、私の身を削ってまで打ち込んだ渾身の一撃を、『脱皮』の一言で済まされましてもね……
なんだか、凄く拍子抜けというか。私だけ張り切ってたみたいで、恥ずかしいというか。とにかく不満でいっぱいです。
「さぁ、これからの話をしましょう」
そう言って、メドゥーサさんは祠の奥の方へと歩いて行きました。私もその後を追って行きます。
奥の一室に待ち構えていたのは、妖艶な笑みを浮かべるステンノーさんと、神妙な面持ちのエウリュアレさんでした。
先に口を開いたのは、エウリュアレさんです。
「待ってたぜ。そして、おめでとよ。無事に試練を突破出来たじゃねえか」
「ええ……正直実感ないですが、ありがとうございます」
「ふん。まぁ、少しは良い面構えになったんじゃねえか? それに、自分が何であるかを理解したように見える」
そう言って、破顔するエウリュアレさんでしたが、私はその言葉の意味がよく分かりませんでした。次に、ステンノーさんが口を開きます。
「私からも謝辞を送るわね。三ヶ月という短い期間の中で、アナタは期待通り……いえ、期待以上に急激な成長を遂げた。これは歴史に残る偉業よ」
それからも、幾つか賛辞を受け取った私は、良い加減鬱陶しくなったので、遮るようにして話を切り替える。
「そ、それで……!! 私を呼んだ本題って何ですか?」
まだ、修行の期間は終えていなかった。現在の私のレベルは、メドゥーサちゃんを倒す前が『87』だったので、その一個か2個上がったぐらいだろうか。
最終目標の『120』まではまだまだ先が長い。しかし、私の言いたい事を察してか、ステンノーさんが言いました。
「……実は、残りのレベル上げは、メドゥーサを下したアナタからすれば大して苦行でもないの」
ステンノーさん曰く、残りのレベル上げは、ひたすら【白狼の視線】という私が以前攻略した、フェンリルさんの所有するあのダンジョンを周回するだけで、いずれはレベル120に到達するとの事でした。
「そこで、アナタに一つ渡しておく物があるわ」
そう言って、ステンノーさんはこちらに歩み寄って来て、蛇の紋章が刻まれた指輪を差し出して来ました。「嵌めてみなさい」と、ステンノーさんの視線の下、私はそれを左手の中指に嵌め込みます。
「……これは?」
「私達に認められた者だけに贈られる、謂わば、九ヶ月後から一回だけ使える、何時でも何処からでも、此処へ戻って来られる転移の魔法が内包された指輪よ。ロマンチックにいうなら、合鍵と言ったところかしら」
「えっ……!? 良いんですか? こんな貴重な物! っていうか、何だか雰囲気がこれからお別れみたいな……」
「それじゃ、行ってらっしゃい〜」
ステンノーさんが言い終えた途端、私の足元に、いつか見た転移の魔法陣が浮かび上がって来て、視界を眩い光が包み込み、次の瞬間。
——眼を開けば、これまたいつか見たダンジョンの入り口へと飛ばされていました。
次回、遂に修行が終わります。




