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メドゥーサ最終戦②

 追撃は無かった。だけど、彼我の距離は開かれた。たった一手で振り出しに戻されたのだ。また一から攻手を練らなければならない。ぎんぎんと痛む身体を起こして、メイド服に染み付いた樹液などの汚れをはたき落とす。


 次の瞬間。視線を上に戻した私は驚愕に眼を瞬く。紫苑の巨体が、物理法則を無視してこちらまで迫って来ていたのだ。500㎏は優に超えるであろうその巨体が、空気を押し潰しながら、飛んでくるさまには、形容できない迫力があった。


「迎え撃つしか……」


 そう思い、ナイフを構えた私だったが、捉えていたはずのメドゥーサの姿が突如として消えた。


 後ろから!?


 ——ぱッ、しゅっ、


「ぐっ……重……い!」


 反射で振り向き、メドゥーサの尻尾による薙ぎを、ナイフの腹の部分で受け止める。普通なら、体積に耐えられず、圧倒的にパワー負けでナイフごと弾き飛ばされるものだが、そこは自分への身体強化と武器への硬化付与によって力差の均衡を保っていた。


 だが、それでも押し負けるものは負ける。そのまま私は、メドゥーサが飛んで来た方向へと弾き飛ばされ、倒れていた木に背中からぶつかる形で衝突した。

 体勢を整えようと身を捩らせるが、起き上がった頃には、既にメドゥーサが眼前に迫っている。

 すぐさま尻尾による瞬速の薙ぎを繰り出してきた。それを躱す術なく、私の身体は後ろの木を薙ぎ倒し、一緒にまた遥か後方へと吹き飛ばされる。地形は変わり、私の身体は麓の滝の流れを止める大岩に大きく衝突し、勢いを止めた。


「ぐはっ……!!」


 肺に溜まった空気が吐き出されると共に、真紅が吐き出される。

 『持続回復』が無ければ、私はとうに戦闘不能になっていた。その回復が間に合う限り、私は何度でも立ち上がることが出来る。


 だが、途切れ行く意識を定めた頃には、目前にソレが迫っていた。

 

「さっきから防戦一方ね? 達者なのは威勢だけかしら?」

「何、を……!! 私はまだやれますよ!!」


 当然、ただの強がりだ。実際には立つ事すらままならない。満身創痍も良いところである。


「なら、これはどうかしら!?」


 途端、メドゥーサが大きく口を開くと、何やら金色の波動を口元に蓄え始めた。

 ゲームで例えると、ボスが強力なビームを放とうとしている寸前だ。


 本気だ。そう理解するのに、さほど時間は掛からなかった。というか、口元に蓄えられたそれが放たれるのに、時間にして三秒も掛からないだろう。それが、私に与えられた時間だ。眼前の“敵”は私を殺そうとしている。


 『むかついた』


 高慢に上から見下ろされるのが悔しくて。対等に立てたつもりが、やはり彼女にとっては、私などそこら何処にでもいる代替品でしか無いのだと。そう認めるのが怖くて。


 ——怒りが湧いた。


 言い訳なんていい。誰かを護りたいとかそんなの今はどうだって良い。自己犠牲なんてクソ喰らえだ。ただ、見返したかった。壊したかった。


 私は……“俺”は……!!


 こんなところで、終わりたく無い!!


 『欲望』が、私の原力となった。


 よろめきながらも、力強く立ち上がる。胡座を掻いているのは、もう疲れた。



「グォおおおおぅぅあああアア!!」


 咆哮を上げる。決して可憐な女子が出しては行けない淀んだ声を。人生で一番、大きな叫び声であっただろう。私の憤り立つ様子を見て、メドゥーサが粒子が集まって出来た、金色に輝くその光線を放つ。びゅーんと粒子が空気を揺らす甲高い音と共に、それは真っ直ぐ私の方へと飛んでくる。対し、私は回避の選択を取らなかった。左手を光線が飛んでくる先へと差し出す。いつかと同じ構え。私は、口早に詠唱を唱え始める。


「『超吸収(ハイ・ドレイン)』……!!」


 それは、嘗てキリカナンに見せた『吸収(アブソーブ)』の魔法の完全上位互換であり、リッチ・キングを葬った魔法やあらゆる物理現象を文字通り吸収して我が物にする私の奥の手の一つであった。


 これは、一か八かの大手だ。ここで、この粒子の光線を吸収し切る事が出来れば、その巨大な力の塊をそのまま魔力に変換し、返しの大技を使う事が出来る。


 そして、メドゥーサの放った光線は、左手に呑み込まれていくかのように直撃した。例えるなら、上空から降ってきた山そのものを受け止めているかの様な重さだった。その質量に耐えきれず、少しずつ押されて後退る。


 「ぐぅッ!……ううっうああああッ」


 勢いに押されども、吸収は進んでいた。私の体力が削られているのと同時に、それの勢いも少しずつ削がれていく。その分、私のMPは上昇していく。最終的に、有利になるのは私の方なのだ。


 ――だが。それは、唐突に訪れた。


「――――――――――――――――!!」


 ビクン……!! と大きく痙攣し、ガラスが割れた様な音と共に、昇天する様な痛楽が襲ってきたのだ。途端、私は余りもの痛みに耐えきれず、声にもならない悲鳴を上げた。


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