強さの答え②
そして、刻一刻とリミットは近付いていく。既に残り十五日を切った頃には、私のレベルは『85』となり、作中のラスボスである【魔王】と同じになっていた。だけど、未だにメドゥーサちゃんには届かない。寧ろ、時が経つに連れ、私の動きの癖が定着していき、それをメドゥーサちゃんに対策されるので、どんどんと手が出なくなってきた。足だけでメドゥーサちゃんに抵抗しては返り討ちにされる。
「分からない……確実に強くなってるのにどうして?」
「私との戦闘中に、余所見するなんて、随分と余裕ね?」
「……しまっ――た」
また、負けた。気を抜いた一瞬を正確に突かれて。尻餅を付きながら、私は上から見下ろしてくるメドゥーサちゃんの眼線に射抜かれて萎縮した。
――なんだか、叱られる前の子供になった気分だ。
「焦っている様ね。凡そ、この前の問いへの答えが見つからずに迷走中といったところかしら?」
「は、はい……答えに辿り着きそうで、だけど、何故かモヤが掛かっていて、どうしてもあと1ピースのパズルが嵌らないんです」
「パズル……ね。適切な表現だわ」
神妙に首を傾げて、顎に手を当てながらメドゥーサちゃんは言いました。
「だけど、そろそろ時間が無いわよ。別に三カ月の期間を過ぎたところで、何かあるわけでは無いけど、ワタシ達や【導者】の期待を裏切る事にはなるわね」
「いいえ、期間を過ぎるつもりはないんです。きっと、三カ月というのにも理由があったのでしょう? そして、私は甘やかされたくないです……これぐらいの試練も乗り越えられない様ではきっとこれから先、私は何も果たせない……」
「へぇ、気概だけは十分というわけね。私相手にそれを言えるのなら大したものだわ」
……口先だけだと、お叱りを受けるものだと思ってました。今日のメドゥーサちゃんは、悪い事をした娘に怒る母親の様に見えるのは私の気のせいでしょうか?
「これ以上、意地悪をするのもあれだから、大ヒントを与えるわ。アナタは、『お嬢様の為』と言い訳して、自分の考えを固定化しようとするのよ。そうしないと、自分が誰で。何を望んで、何をしようとしているか分からないものね? アナタの中には二人分の人格がある。精神的な条件を除けば三人かしら? だけど、共通して言えるのは、意思を持って行動しているのは一人だけで、感情を持つのも一人だけよ。そして、とある人物について考える時だけ、その思想。生じる感情は重なる。それが、アナタ達が共通して持つ、●●という感情よ」
また、大事な部分を濁されました。後は、自力で答えに辿り着けという事なのでしょう。
「アナタがそれを自覚しない限り、その刃は何時までも、自らの意思を持たぬ空虚なものなのでしょうね」
それだけ言って、メドゥーサちゃんは、用済みとばかりに祠の奥へと去っていきました。独りになった私は、メドゥーサちゃんの言葉を脳内で振り返りながら、その言葉の真意を探る。
今の私が本当に私なのか。それとも、俺なのか分からない。だけど、その思想が一つに重なり、私《俺》がアリスとして、一つの意思を持つ瞬間。
――それは、お嬢様について考えている時だ。
その事を考える時の私だけは、動きが冴えているのだと自覚がある。だから、これまで何度も言い訳してきた。
黒狼との一戦で死にかけた時に。お嬢様を思い浮かべた。
リッチ・キングとの一戦では、お嬢様から授かったメイド服を汚された事で、怒りが爆発した。
では、お嬢様を思い浮かべる時に私がお嬢様に抱く感情とは何??
――ああ、どうして気付かなかったんだろう。
一度気付けば、全てを理解できた。
確かに、これを自覚しないと、私は空虚で言葉に重みの無い人間のままだ。
達観的で、己を判断基準に入れていないと諭されても仕方が無い。
だって、私が自覚できなかった●●。その感情の正体とは――
「私自身の『欲望』なんですから」
【欲望】こそが、私の求める『強さの回答』だったのだ。




