リッチ・キング戦③
リッチ・キングの片割れが、耳障りな悲鳴を挙げながら、私の手の中へと吸い込まれる様にして、消滅しました。
魔力で実体化したのなら、それはつまり魔力で体が出来ているという事。
それなら『吸収』でその魔力ごと吸い込んで仕舞えば、まるでダイ〇ンの様に吸引出来るでしょう、と思っての一手でした。どうやら、効果はてき面のようです。これが今の私に出来る最大限のリッチ対策になるでしょう。
そして、半身を失ったリッチは弱体化するはず……
「ぎぁぁあしゅあぁあぎうじじじぃ」
まるで生物の尊厳を愚弄するかのようなこの世のモノとは思えない唸り声をあげたそれは、次の瞬間。ぷしゅん、と水気が飛んだ様な音と共に、その身体は漆黒から、鬼のような赤へと変わります。一目で分かる激怒っぷりですね。
しかし、変わったのは色だけでありません。注意深く観察をしていた私はしかし、次の瞬間、リッチの居場所を見失います。何の予兆も無く消えたのです。
迎え撃つ為に、私は左手に『吸収』を構え、もう一度攻撃する一瞬を狙って魔力を吸収すれば、問題ないと判断する。
先とは違って、相手は一体になったのだから、失敗する理由が無い。そうこう考えてる間に、リッチ・キングの次の攻撃は、斜め後ろから飛んできた。
「ここ……!!」
掛け声と同時に、右手に持つナイフを振ってくる鎌に当てて勢いを止め、その間に左手を差し出して、『吸収』を発動させようとする。
「決着だッ……!!」
――だが、私の高慢は容易く覆された。
「…………はやっ!?」
完璧なタイミングで突き出した左手は虚空を掴み、瞬間移動した様にも見えたリッチは、一瞬にして私の背後を取っていた。そして、赤褐色に変色した鎌先が背中越しに振るわれる。
「……まにあわな……!!」
――ズサッ。
鮮血が舞う。死神の鎌に絞り取られた。
だが、咄嗟に身を引いた事で、攻撃の軌道をずらし、傷口は浅く私は踏み留まった。
だが、反撃しようとした頃には、リッチの姿は再び虚空へと消える。
「……クソッ!! 寧ろ、強くなりやがった」
想定外だ。まさか、半身ともいえる魔力の半分を奪い取ってやったというのに、弱体化するどころか、速さも重さも増してくるなんて。どういう原理だ?
答えは直ぐに出た。
「怒りか」
ソレにも、感情があったのだ。半身を消された事への怒り。屈辱、恨み。ソレが、この眼前の敵の覚醒を促した。
そして、雪辱を晴らすべき敵はこうしてまだ立っている。
構えを戻した頃には、次の一手が降っていた。
「……ぐはっ!」
切り傷が増えていく。背中が、肩が裂かれていく。一度付けられた傷口は特に狙われ、鎌によって肉を抉られていった。自動回復で、再生してはまた切り刻まれる。
しかし、痛みだけは変らず伴っていた。
「……いてえじゃねえか」
確かに、コイツは早くなった。攻撃も多様で、狡賢くなっている。
だが、それだけだ。
――生憎、キレているのは、お前だけじゃない。
「私の、メイド服を返せやああああああぁあぁあああ!!」
予感だ。そこに、攻撃が来る予感があった。だから、突き出した。
がむしゃらに突き出したように見えた左手は、修羅となったリッチ・キングの胸骨を正確に掴み取り、私はそのまま左手に魔力を覆って魔法を発動させる。
「超吸収……!!」
そして、修羅の骸骨王は呑み込まれるようにして、虚無へと吸い込まれていった




