急募。燃やせない木の対処法
無数の木の枝が発射されて、まるで千本ナイフかの様に俺に襲いかかってくる。それを、どうにか肉眼で捉えて間一髪で避けていく。次に、また死角からの木の根による鞭の様な攻撃が飛んでくる。俺は右手に持つ王家の宝剣を振るって、それに対応した。
その次には棍棒の様に太い木の枝をまるで腕を振り回すかの如く、横薙ぎに振るわれる。俺はしゃがむ事で攻撃を避けた。あんなの、受けてちゃ身体が木っ端微塵に潰される。
——完全に防戦一方だった。相手の手数は多いし、一撃でも掠れば致命傷になり得る。対して、俺の方は有効な攻撃手段を持っていなかったのだ。もし、こんな無理ゲーがあれば大ブーイングが起こるに違いない。
木なら燃やせば良いと思うのだが、そうなればドロップ品の薬瓶毎燃やしてしまうだろう。よって、燃やすという最大の討伐法は制限されてしまっている。
そもそもだ。ゲームではこのダンジョンにトレントなんか出なかったぞ? 確か、ダンジョンの奥の部屋に辿り着くと、そのままトランスポーションを入手できたはずだ。これは宰相の息子が手に入れるという本来のストーリーに合わせるべく、ゲームの強制力でも働いてるのか?
考えている間にも、攻撃の手は止まない。トレントに体力があるかは知らないが、表情一つ変えずに攻撃の手を緩めないトレントに対し、俺の体力は少しずつ削られていた。
「……はぁ、はあっ。クソッ! どうするってんだよ」
呼吸が過疎する。空気を求めて、大きく吸うもそれに合わせてトレントの鞭による攻撃が直撃した。
「がはっ!」
そのまま俺は壁に向って飛んでいき、滑り込むようにして壁に穴を空ける。肺が圧迫され、空気と一緒に朱い液体が吐き出される。
「ははっ、ちくしょう! 笑えねえな。折角転生したってのにここで終わるのか……」
迫りくる木の刃。これが当たれば、いよいよ俺は立つことも儘ならないだろう。走馬灯にも感じる刹那の中、俺はとある悪役令嬢の姿を反芻した。
「ああ。そうだよな。ストーリー通りに進めば、君も死んでしまうんだよな」
自分が死ぬ事に深い抵抗はない。転生したあの夜に、推しの御尊顔を一番近くで拝めただけでも、俺は十分満たされていたのだろう。だけど、その推しが死ぬ事実だけは、どうにも耐えられなかった。
俺は意識が急速に覚醒していく感覚に陥る。真面に戦ってダメなら、頭を使って戦えば良いんだ。
考えろ。考えろ。考えろ。
相手は木そのものだ。根を含む自分の全身を使って攻撃してくる。手足が人間より多いようなものなので、攻撃の手段も多彩だ。二本の手足だけでは到底手数では勝てない。幹部分の何処かに魔物の心臓である【魔核】があると思うので、それを狙えば倒せるが、何処にあるか分からない上に、固くて刃が通らない。そして、それ以前にそこまで近寄れないのだ。
攻撃が迫ってきている。思考する時間は終わろうとしていた。やはり、どうにもならないのか……
そう、諦めようとしたその時。
「——あ、閃いたわ」
名案が浮かんだ。