リッチ・キング戦①
ファンタジー作品でよくいるだろ? 弓とか剣とかを持ってる動く骨の怪物スケルトン。
それの上位種で、王冠を被った骨の戦士の王『リッチ・キング』それが、眼前の敵の正体だった。
——どうして見えるのかって?
新技だよ。暗視の黒魔法を自分にかけたんだ。暗闇の中でも申し訳程度に視界が通る様になる効果だ。スマホの暗視カメラと同じ感じに写っていると連想して貰えば分かり易いだろう。青緑のぼんやりとしたもやもやが視界を覆っている。
まぁ、この視点にまだ慣れないから、普段は灯りを点けて肉眼で視る。
それでも、ただ真っ暗闇で何も見えないよりは、鮮明では無いにしても少しだけ見えていたほうが良いだろ?
——ああ、そういえば、また口調が俺に戻っている。
眼前のコイツが思った以上に強くて、手こずっていたのだ。
不可視の斬撃がまた飛んできて、それを右手のナイフで受け止めた。
——ザンッ、と、刃軋り音が響く。
「チキショウ。何処から攻撃が来るのか分かんねえよ」
こっちは視界が明瞭では無いというのに、向こうは正確にこちらの位置を掴んでいる様だ。まるで、視えているかのように正確に、攻撃を繰り出してくる。
こちらもどうにかして、向こうの位置を掴みたいが、ソレは攻撃の瞬間でしか姿を現さなかった。というか、攻撃時にしか姿を捉えられない。
推測だが、おそらくソレは、攻撃の瞬間にしか実体化しないのだ。逆に言えば、攻撃の瞬間だけは実体化する必要があるという事。
ゲームでも御馴染み、『透明化』状態のアサシンが攻撃の瞬間だけ、『透明化』を解かなければいけないあの謎設定。
まぁ、その謎設定のお陰で攻略法が見えてる訳なので、とやかく言うつもりは無い。
あ、因みに『リッチ・キング』はゲームでも出て来ていて、そのレベルは75。
闇落ちアルシェードと同じである。
つまり、コイツさえ倒せば、私《俺》はゲームのアルシェードを超えた事になる。
……今更、何を競ってるんだか。
――ゲームの闇落ちアルシェードには戦うべき理由はあっても、護るべき者はいなかったのでしょう。しかし、私には戦うべき理由も護るべき御方もいる。
彼に追いついたぐらいで、満足しては……ましてや止まっては行けません。
なんて思いに耽っている間にも、リッチ・キングの攻撃は降ってきます。今度は、背中からでした。私は、反射的に背中を屈め、横薙ぎのその一閃を回避します。
――しゅぱっ。
と、死神の鎌が空を切る音と共に、私は身を翻して反撃します。
左手に持つナイフを投げ付けました。リッチ・キングを正確に捉えて放たれたナイフはしかし、ソレに、命中する事無く。しゅっ、とそのまま、リッチの身体をすり抜けて行きました。
「――あっ」
漏れ出た声と共に、私はソレの正体に関して正しく悟りました。
リッチは、霊体。言い換えれば、実体がありません。攻撃の瞬間に姿を現すのは、攻撃時だけ魔力を纏う必要があるので、その覆われた魔力が実体化した様に見せているだけで、実際に実体化している訳ではありませんでした。
霊の駆除方法は、前世でも此処でも変わらず、『除霊』という特殊な手段が必要だ。
前世でいうと、お祓いですね。お寺に行って身を清めたりとかして、自信に張り付く霊を払うでしょう。
そして、この世界にも『除霊』の方法はありました。それが、
――『神聖魔法』による浄化。
私の使う黒魔法(影魔法)の相反する聖属性による攻撃が必要でした。




