【白狼の視線】攻略①
遂にやって来たレベル上げに最適とやらの、このダンジョン。
名を、【白狼の視線】というらしいです。
如何にもフェンリルさんが付けそうなダンジョン名ですよね。ゲームでは出て来ないダンジョンなので、運営が付けた訳では無いのでしょう。
フェンリルさんがいうには、出現する魔物のレベル平均は50程らしいです。私と同等の魔物が溢れかえっているという事ですね。これは、手強そうです。ですが、後には引けません。これぐらい乗り越えられないようでは、お嬢様を救えませんから。
メドゥーサちゃんはこの場にはいませんよ。いざという時に遺体回収だけはしといてあげる。との事でした。
ステルスで私の後ろを付いてきているのでしょうか? ……寒気はしますが、気にする必要はありませんね。こちらを、害する気はないでしょうし。
——私、いつからこんなに疑り深くなりました?
「陽光」
影魔法、外にいる間に凝縮した灯りを付けます。洞窟内と同じ環境ですので、暗くて、注意力が必要になります。脚が縺れて転んだら、下は奈落でした〜なんて洒落にならないですからね。
暫く潜っていると、初めて魔物が出現しました。
「——ジャイアント・コブラ……!!」
それは、巨大な毒蛇の魔物でした。レベルは53の上級ダンジョンによくいる魔物。目測では、メドゥーサちゃんの4分の1程の大きさでしょうか。それでも、優に人の3倍ぐらいの大きさはありますね。
注意すべきは、その毒液です。
——ぴしゃぁあ、と唸る様な声と共に、紫の気色悪い液体が飛ばされて来ます。当たれば、私の身体は瞬時に溶け落ちるでしょう。
私は足元に注意しながら、それを避け、カウンターにナイフを投げ付けます。毒には毒を。ジャイアント・コブラの胴体を僅かに掠ったナイフは、そのままガラン、と床に落ちますが、その毒は存分に効いている様で、ジャイアント・コブラは固まった様に動かなくなりました。
視線だけを動かして此方に媚びる様な視線を送って来ます。当然、命乞いに応えはしませんが。仕返しをされる前に、脅威の芽は早めに摘んでおくべきです。私は、そのままゆっくりと近づいてナイフで、その胴体と頭を切り離しました。
「……多分、これで死ぬよね?」
首を斬られて死なない生物はいないと思うのですが……なんか、幾ら切り刻めど死なない蛇をホラー映画で見た事がある気がします。
なんてくだらない事を考えている間に、蛇はピタリと止まって二度と動きませんでした。
——流石に死んだみたいです。
それだけ確認すると、私はまた歩き出します。
少しだけ、野生の感覚を持つ様になりました。此処は弱肉強食の世界。襲われれば、逃げるか、返り討ちにするしかないのです。
容赦なんて出来ませんよね。私を捕食しようとしたのですから、捕食される覚悟が向こうにもあったという事ですよ。
冷徹で無慈悲な殺し合い。それが野生なんです。ふと、私は一つの疑問を己に投げ掛けました。
——では、人間も同じ様に殺せるのか、と。
……その回答を出すには、まだ私の覚悟が足りない様です。
しかし、いつかその回答を出さなければならない時が、必ず訪れる事を、私はこの時、本能的に感じ取っていたのです。




