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黒狼戦④

ラスボスは第三形態まである――ってのは、RPGでよくあるテンプレだろ? まぁ、別に眼前のこの敵が形態変化した訳でもないし、未だにゲーム感覚でいるって言いたい訳じゃない。とどのつまり、この第三ラウンドが最終決戦となると言いたいだけだ。


 何度目か分からない黒の一閃が、空を切った。俺がその隙を狙う事も見越して、黒狼はすぐに一歩を退く。だが、黒狼のスピードには目が追いつく様になった。月明りのお陰で、黒魔法も使える。


 黒狼の退いた先に、先の魔法『奈落の落とし穴』を発動させる。魔法発動の対価として利用したのは、黒狼自身の影だ。当然、そのサイズは黒狼の大きさに比例するので、ソレを丸呑みするのに十分の大きさの落とし穴だ。


「……むっ!?」


 だが、黒狼はもう一歩後ろに跳び退く事で、落とし穴を避けた。その際に踏み台となった足場は無かった筈だが、どうやら空気を蹴ったらしい。なんて、イカレ具合だ。


 だが、避けられる事は想定済みだ。これで、また距離を取れる。距離を取ってからもう一度突破口を探ればいい……


「って、これまでの俺なら考えてたけどッ……!」


 ここで引いて、チャンスを逃す様じゃ、いつまで経っても、こいつには勝てない。


 ――しッ、と地を蹴る。今度は、こちらから攻撃する番だ。


 スカート裏に隠していたナイフを二本取り出して、片手に一本ずつ構える。それを、手を交差させて勢いよく上に薙ぐようにして、先ずは右手側のナイフを投擲した。だが、それは黒狼の腕によって叩き落される。毒を塗られている事を想定して、刃先に触れぬ様に柄の部分を叩いて落としたようだ。


 そこで、時間差でもう一本のナイフも投擲する。先の一本を払うために、黒狼は右腕を使っていたので、今度は左腕で叩かれた。これで、両腕を使えない。


 俺は、仕込んでいたナイフが無くなった事を確認すると、『黒鉄』を造ったのと、同じ原理の影魔法で新たにナイフを生成した。影で作った武器だ。基本的には使い勝手の良い魔法だが、影が無いと使えないのと、今しがた生成したばかりなので、毒が塗られていない点がネックだ。後は、消費魔力が多い点か。ナイフの一本や二本程度なら問題ないのだが。


 先ずは携帯用に二本を造って、直ぐに構えた。そして、また黒狼に向って肉薄する。ここまで、攻撃直後の反動で黒狼の動けない一瞬の空白で、やってのけた事だ。


 そして、二度目の接近。そして、一度目とも同じシチュエーション。当然、黒狼のとる選択肢は――


 ――グルるるぅゥゥぉおオオオオ

 

 吠えた。それは、空気を揺らして、俺を吹き飛ばそうと襲ってくる。


 だが、その手は一度見た。対策を講じていない筈がない。即座に『影分身』を五体程生成した。それらは、何枚もの壁となって背中合わせになり、吹き飛ぶ俺の身体を支える。


「……なにぃッ!?」


 黒狼に動揺が走った。そして、俺は再度、疾駆した。黒狼が防御態勢に入る。正面から俺を返り討ちにする気らしい。


 俺は、左手に持つ影で出来たナイフを投擲した。それを、黒狼は身を引いて避ける。そうした事で、黒狼の影は俺の方へと剥き出しになって現れた。


 その瞬間、俺は勝ちを確信する。俺は、残ったもう片方のナイフを振り上げ、両手で柄を掴んだ。それを見た黒狼が怪訝の表情を見せる。ナイフを振り下ろして、黒狼に当てるにはリーチが短いナイフでは届かない距離だった。


 だが、俺の狙いは黒狼の()()では無い。俺は、そのままナイフを振り下ろして突き刺した。


 ――黒狼の影に。


 俺の影から生成したナイフと、黒狼の影が結合する。


「――ぐッ!!」


 黒狼の表情に苦悶が浮かんだ。本能的に不味いと思ったのか、身を翻して逃げようとしていた。だが、もう遅い。


「これが、お前を仕留めた技の名だ!! 『影喰らい(シャドウ・イータル)』……!!」


 そして、黒狼の影は俺の魔法で造ったナイフに呑み込まれていき、黒狼の本体もまた、この世から消滅する様に、粒子となって消えたのだった。


「…………見事だ」


 黒狼だったソレの、満たされた声だけが、少女の耳に残った。 


 


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