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順当①

 当然の結果だった。全面的に私の油断が招いた覆しようの無い敗北。心持ちから負けていた。だから、当然の順当だ。あれでは勝てるはずが無かったのだ。チャンスがあるなら、もう一度やり直したい。そうすれば、きっと次は上手くいく。


 ――だが、此処は現実。そんな奇跡が起こるはずが無い。二度目など、巡っては来ない。恨めしい程にその事実が、私の胸中を貪った。


「おい、キサマ。ワレの問いに応えよ。キサマは誰の指図でワレを追って来たのか」


 そして、敗者は強者に服従するのだ、と。


 ソレは嗤った。嘲笑的に、愉快気に。


 同時に、私は笑った。皮肉気に、苦悶混じりの笑いを。


 もはや立つ足は片が捥がれた。当然の様に双翼のある鳥は、片翼となったのだ。そんな憐れな鳥が行き着く当然の末路とは何か。


 ――上を見ながら、地を這う事である。


「おい、ニンゲンよ。もう一度問うぞ。ワレに従うか? その命を無為に散らすか。最後の選択の機会を与えてやる」


 こいつ、喋れるのか。


 普段なら冗談交じりに皮肉も交えてやるところだが、生憎そんな気力は無い。淡々と事実を受け入れていた。


 負けた。敗れた。敵わなかった。不覚を取った。地に伏した。惨敗した。

 勝てなかった。力尽きた。届かなかった。翼を折られた。足を捥がれた。


 だから。


 ――このまま死ぬってのか?


「……………………………」


「オイ」


 尚も沈黙を貫く私に対し、ソレは一度だけ、深く唸った。そして、その爪牙を振り翳す。


「最終宣告だ」


 と言って、ソレは鋭い眼光を放った。


「はっ」


 漸く出た第一声は、血反吐を吐いた様な嘲笑だった。


 ――何に対して?


 当然、自分自身の無力さ。愚かさへの侮蔑の嘲笑だ。


「ははっ、あははははっ」


「……む、キサマ狂ったか?」


 気持ち悪いものを見たかの様な視線を向ける黒狼。その仕草からは、トドメを刺すか迷っている様子が伺えた。


 甘い。今に見ていろ。必ず一矢報いてやる。


 だが、そう思う心とは対称に、身体は極寒の中に投下されたかの様に動かなかった。何より、立つ事すら儘ならない。


「ほう。まだ戦う意思を見せるか。小娘よ。だが、無駄な抵抗は止めておいた方がよい」


 なにより。と、黒狼は、視線で私の半身を射て、吐き捨てた。


「キサマ、震えておるぞ」


 そこで、私は自分の足が、まるで電動のノコギリかの様に、小刻みに震えている事に気付いた。


「……ッ! な、んで?」


「無論。それは、恐怖だ。強き人間の小娘よ。キサマは恐れておる。死に直面した今こそ、」


 ――その命が刈り取られる事を。このワレを。


「……!? う、うごいてっ! おねがい!」


「……………………」


 ソレは、ただ見ていた。羽を捥がれた小鳥が無様に足掻くサマを無機質に見下ろしながら。


「い、いやっ! しにたく……ない」


「見苦しいぞ、小娘。キサマは負けたのだ。事実を受け入れるがよい」


「いや!! 私は……お嬢様を、お護りすると……誓ったの、だから……もう、誰にも負ける訳には」













 ——また、お嬢様を言い訳にするのですか?



 


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