初めてのダンジョンだぞっ☆
事は、俺の天才的な発想に遡る。悪役令嬢であるルルカ様をこの目に映す為にはどうすれば良いのか考えていた俺は、自分がルルカ様と同性になれば良いのだ! と折衷案を思い付いたのである。
何を言ってんだ? と思ったそこの君。
忘れちゃいないか?此処は異世界だぞ? それも、ゲームが原作の世界だ。ゲーム開作に関わったスタッフの中に、ts好きの変態が混じってて当然だと思わないか?
俺は思うね! だって、俺もts好きだから。女の子は可愛い! 可愛いは正義! 百合に祝福を!
そんな訳で、女体化できる心当たりがある俺は、王都を離れて南に南にと行った先にある小さなダンジョンへやって来た。誰も立ち入らないような森の奥底にあるので、難易度の低いダンジョンの割に、踏破出来た者はいない……って設定だったはず。作中では、宰相の息子であるキルカナンの攻略の際に、ミニイベント的な感じで、一度訪れるぐらいなので、俺とて詳しい詳細は知らない。
だが、このダンジョンのクリア報酬こそが、今日ここに来た目的でもある。俺はとあるブツを求めてこのダンジョンに来たのだ!
襲い掛かってくるスライムを剣の鞘で薙ぎ飛ばしながら、暗い道を斬り抜けていく。クソ雑魚ナメクジの王子の身体だとは言え、それはゲームを進めた上での基準だ。元々、基礎能力っていうかスペックは高い様である。スライム如きで遅れは取らない。
やがて、俺は少し拓けた部屋に辿り着いた。その中心部に木の洞が空けられており、その中にはピンク色の妖しい液体の入った小瓶が挟まっている。
トランスポーション。それが俺の求めるブツ。簡潔に言えば、性転換剤だ。
おそらくそれであろう薬瓶を手にするべく、俺は手を差し出す。
――その時だった。
薬瓶に手が触れる直前で、俺は絡みつく木の蔦に差し出した右腕を拘束される。眼前に佇む、巨大な木が動き出したのだ。それは、身体を起こす様にして蠢き、やがてその全身が露わとなった。
――その正体はトレントである。ゲームでも絡み手をよく使ってくるお邪魔系モンスターとして厄介で、その危険度は、単体でありながらコボルト4匹分の群れに匹敵する。
ほぼ初期状態のこのクソ雑魚王子が到底敵う敵では無かった。俺は、歪に眉を顰める。
(おいおい! やべえじゃねえか! どうやってコイツの身体でトレントに勝つって言うんだよ!)
俺が身を引いている間に、トレントは動き出した。先ずは様子見とばかりに、地面から生えている根を突き出して俺の脚も拘束しようとする。
俺は徐に剣の鞘を抜いた。
そのまま、自分の腕に絡みつく蔦を切断するべく、振り下ろす。そして、死角から迫りくる木の根を避けるべく、咄嗟に跳躍した。攻撃が失敗したと察したトレントは、防御態勢に入るべく身を固める構えに入る。
俺は急速に流れ出す血の鼓動を感じながら、吐き捨てる様に呟いた。
「さて、どうやってこの場を凌ごうかね?」