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黒狼戦①

 黒魔法の本質は、影だ。言い換えれば、闇とも同じである。光注すところに影がある様に、私の力の本領は明りがある場所でしか発揮されない。黒魔法だとか、怪しげな名前をしている割には、夜に弱いのである。一番有力な手段である影を操る能力全般が制限されている。では何が出来るか?


 残った黒魔法は先日、キリカナンに披露した『吸収アブソーブ』と『浮遊フライ』だけだった。どちらもこの眼前の敵に有効だとは思えない。この前、メドゥーサちゃんに見せた『黒鉄』も、影を利用した武器生成の応用で巨大な鉄球を生み出しただけに過ぎない。一般の魔法も使えなくはないが、申し訳程度のものである。


 そこは私の努力不足とも言えるが、アルシェードのスペックの低さに諦めて通常魔法の習得を諦めていたのである。こいつ、全魔法を使えるくせに、適性が低いのか、ゲームでも中級までの魔法しか使えなかった。序盤では役に立つが、後半に経つに連れ、足手纏いになっていく。唯一の適性があった黒魔法は、敵となったアルシェードのみが使えて、残念な事に味方にする事は出来なかった。


 魔法がダメなら近接戦闘だ。隙を探ってこの二本の刃先を埋め込むしかない。最低限掠りでもすれば麻痺毒で動きを封じられる。その間に喉元を裂けばいい。


 ――そう思ってたけど。


「ッ……! くそっ! すばしっこいなお前!」


「がるるるぅぅ……!!」


 スピードは両者、同等に思えた。


 お互いの刃が空を切る。


 しゅぱっ、しゅっ、しゅいっ、と。


(こっちは必死に決定打を探しているってのに、向こうはその鋭爪を突き立てれれば致命傷だ。理不尽だ。せめて、動きが緩慢であればやり易かったのに……!)


 体力残り一で魔王戦をやっている気分だ。しかし、生憎ゲームとは違ってコンテニューは無い。

 現在の私のレベルは46。ステンノーさんが用意した壁版にはそう刻まれていた。

 しかし、相手のレベルは目測50程に見える。ランク分けするところの、Aランク相当の魔物だ。

 レベルでは負けているが、ギリギリ今の私で、互角程度の相手に思える。

 

 なら、同格の相手と、勝敗を分ける要因とは何か。


 それは、相性だ。単純に戦闘スタイルの有利不利であったり、後は環境に影響される。

 戦闘スタイルは一緒だ。どちらも近接戦闘でトドメを刺す戦闘法。中距離から魔法も使える私の方が僅かに有利と捉えられる。尤も、有効打になる魔法は使えないのだが。


 だがしかし、環境面では圧倒的に不利を被っていた。一つは、天気や時間帯などの自然要因での不利。そして、もう一つは圧倒的な地の利の不利だ。


 真ん中の広場に出れば、視界が広がって、平等に肉弾戦が繰り広げられるかも知れない。だが、純粋な肉弾戦で、ただのメイドの私が、獰猛な野生の獣に勝てる道理は無かった。


 だから、距離を取って向こうの攻撃をいなし続けて、こちらから奇襲を仕掛けるしかない。だが、木々の高さや配置を把握しきっていない私は、この森で過ごして来た向こうと比べて、動きが取り辛い。


 ――どうにかして、突破口を見つけないと……


 しかし、次の瞬間。ぶごっ! と打撃音と共に、私にとっては最悪の一手を取られた事を悟った。

 

 黒い巨狼の一薙ぎ、そしてまた一薙ぎと連動する様に、木々が倒れていったのだ。


「――ッ! なんて、腕力だよ!!」


 そして、私が身を潜めていた木もまた、こちらに向かって倒れて来る。


 私は、慌てて別の木に向かって跳躍して避けた。


 だが、後は同じことの繰り返しだ。


 黒い狼は、自らの住まう森の環境を破壊する事を厭わず、次々と木々を薙ぎ倒していく。やがて、辺りの木々は全て昏倒し、視界が開けた。


 眼前の黒いソレと、再び視線を交わす。


「……がるるるぅぅオオゥ」


「……ま、不味いぞこれは……」


 冷徹に雄叫びを挙げるソレに対し、私は背中から、ひしひしと、冷や汗が伝っていくのを感じた。

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