新たな武器②
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十四日目
新たな武器、暗殺用のナイフを携える様になってから三日目。いつも通りに、朝は祠周りを周回し、午後にメドゥーサちゃんと模擬戦で相手をして貰っていました。
最初の頃より、無駄な動きが減って来ているとお墨付きを貰っていた私ですが、メドゥーサちゃん相手に粘れる時間は増えども、決定的な打点を見いだせず、相変わらず手も足も出ない状態が続いていました。
六回目の模擬戦が終わって、メドゥーサちゃんは徐に口を開きました。
「だいぶナイフにも慣れて来たようね」
「はい。リーチは短いですが、何本も携帯出来て、一、二本ぐらいなら投擲も出来るし、何より軽いので、その分機動力が上がります。メドゥーサちゃんのお陰でいい得物に出会えました。ありがとうございます」
「いいえ、私は助言しただけよ。それを使い熟せるかはアナタの努力次第ね」
「はい。……ですけど、相変わらず火力不足は目立ちますね。最近は暗器になれる為に、魔法の練習も怠っていましたし、毒で補おうにもメドゥーサちゃんみたいに毒が効かない相手にはどうしようもないですし……」
「ふうん。まぁ、戦闘技術は向上していってるから、そろそろ頃合いかもね」
頭の下から生える青銅の手を顎に当てながら、メドゥーサちゃんは言いました。
その言葉の意が分からず、私は怪訝に訊き返します。
「……? 頃合いですか? 何をするんです?」
「レベリングってやつよ。戦いの基礎を身に着けたなら、次はいよいよレベル上げの段階に入るわ」
「……えっ!? 私、てっきりこのままずっとメドゥーサちゃんと模擬戦するだけかと……」
「馬鹿ね。それだと経験値が増えないじゃない。レベル上げをするなら魔物を倒すのが一番だって、アナタが一番分かってるでしょ?」
「そ、そうでしたね。なんで思いつかなかったんでしょう」
「アナタ、一つの事に必死になると周りが見えなくなる癖があるみたいだからね」
「……そ、それでレベル上げといっても何処でするんですか? この辺りにダンジョンなんて無いみたいですし……」
「その点は問題ないぜ」
その時、割って入る様にして会話に入ってきたのは、エウリュアレさんでした。
実に二週間ぶりの再会であった。二週間もの間祠を留守にしていたのか、御飯の時も、姿は見られず、メドゥーサちゃんとステンノーさんと、私の三人で食べていた。なら、一体あの料理は誰が作ったのか。気になった私は、ステンノーさんに聞いた所、どうやら分身体を残して料理だけ熟し、エウリュアレさんの本体は用事があって、仙界を去っていたらしい。では、一体これまで音沙汰なく何処に行っていたというのか。
「エウリュアレさん、お久しぶりです! 何処に行ってたんですか?
……その前に、お帰りなさい、ですね」
「何よ。妙に律義じゃない? まるで、帰ってきた主人と、それを迎える夫婦の様だったわ」
「め、夫婦!? ち、違います! そんなつもりじゃ……」
夫婦。という単語に過剰に慌てる私を見て、悪戯が成功した狸の様な表情を浮かべるエウリュアレさん。
「ははっ、冗談じゃない?。そんなに慌てちゃって、可愛らしいわね」
「か、かわっ!?」
「エウリュアレ姉さん。そこまでにしてあげて」
呆れた様子のメドゥーサちゃんが止めに入る。
「はいはい、本題に入るわね。実はね、この二週間、私は元老院の一体である、
【導者】フェンリルの下に赴いていたの」
「えっ!? 他の元老院さんの所に行ってたんですか!?」
「ああーはいはい。一々、リアクションが過激で調子が狂うわね。それでね、頼み込んできた訳。彼の領地にある、アナタのレベル上げに最適なダンジョンを貸してもらう様にね。そんな訳で、早速行くわよ」
そう短く説明すると、私の返事などお構いなしに、彼女は魔法を詠唱し始めると、見覚えのある魔法陣が、私の足元に浮かんできた。
「それじゃ、行ってらっしゃい~」
「――――えっ、ちょっとま――」
最後まで紡がれる事の無かった、私の戸惑いの声だけが、その場に反響しては虚しく木霊した。




