修行開始①
実戦修行一日目。メドゥーサちゃんとの一対一の組手式の模擬戦でメドゥーサちゃんから一本を取るのが、この三カ月間の目標。
だが、一本目から私は彼我の差を思い知らされていた。
「まだまだ甘いわね」
地に伏す私を見て、メドゥーサちゃんが呟く。
手も足も出なかった……魔法は当たる前に尻尾で防がれ、威力が足りていなければ魔力をぶつけて相殺される。剣の攻撃も、全て躱されるか同じく尻尾で弾かれるかだ。
圧倒的に魔法の威力が足りない。肉弾戦では、速さ、力、共に足りていない。
そして、返しの尻尾による一薙ぎで、私はダウン。
これを、既に十回以上繰り返していた。
「つ、強すぎませんか? メドゥーサちゃん」
「これでも、レベル『87』よ。魔王より強いから当然でしょ?」
「そ、それはそうですが……少しは手加減したって」
「それじゃアナタが強くならないじゃない?」
「とほほ」
漏れ出る様にため息が出る。
「動きは良くなっていってるわよ。この調子ね」
とはメドゥーサちゃんの言葉ですが、手応えはまるで変わらず、自分の成長を感じられていない私でした。
今日は休みなさい、とメドゥーサちゃんの言葉に従い、その日は就寝に付きます。
強くなるには先ずは規則正しい時間に寝て起きる所から、と当然の様に言う御三方の方針に従い、私は日が落ちては夕飯を食べてすぐに寝て、日が昇る前には起きます。
そして、迎える二日目。
この日の朝は、体力作りの為、祠の周りの山を三周しました。距離にして二百キロの長距離を休みなく走らされた私は、クタクタのまま、次の特訓に励みます。
午後はメドゥーサちゃんとの組手式の模擬戦。
「かかって来なさい」
合図と共に、私は肉薄します。右手で剣を握り、空いた左手で魔法を唱えます。放ったのは、黒魔法の『黒炎』。闇落ちアルシェードの切り札とも言える敵を焼き尽くすまで消えないその炎を、メドゥーサちゃんに向けて放ちました。
しかし、それがメドゥーサちゃんに届く前に、彼女はやはり尻尾で人払い。尻尾に魔力を込めて相殺したのか、炎は付着する事無く消えました。
しかし、そこまでは想定済み。このくらいで通じるとは夢にも思ってません。
私は、メドゥーサちゃんの尻尾が振るわれるタイミングで、浮遊魔法を使って跳躍し、日光に重なる位置につく事で、視界で捉え難くします。そして、剣を頭上にかざし、振り下ろすかと思わせて、身を翻し、そのままの勢いで剣を投擲します。
これにはメドゥーサちゃんも驚いたようで、一瞬反応が遅れます。しかし、これも尻尾で跳ね返されるでしょう。そこで、私は尻尾を使えないその一瞬を狙って、『黒炎』と同時に唱えていた魔法を構えました。
――多重詠唱。同時に多数の魔法を詠唱する技術です。
魔法師として当然の技術ではありますが、その習得は難しく、また扱いも一歩間違えれば魔力が逆流してオーバーヒートしかねない代物ですが、アルシェードの身体が思ったより優秀なのか、割とやったら出来たものです。
『黒鉄』
黒魔法で出来た人間の頭十個分の大きさの鉄球を、メドゥーサちゃんに向けて投擲しました。渾身の一撃です。これがせめて掠りもしないなら、今の私には他に手がありません。
予想外の追撃に、一瞬怯むメドゥーサちゃん。その尻尾はさっき投げた剣を弾いたばかりで、再度振るうには予備動作の時間が必要です。
――これは、当たった。
そう確信した私はしかし、次の瞬間。驚愕に大きく眼を開けます。
投げ付けたメドゥーサちゃんの頭よりも大きな鉄球は、メドゥーサちゃんに当たる直前で、バキバキ、と音を立てて崩れ散ったのでした。




