修行の前に①
蛇の祠。ゴルゴーン三姉妹が棲むこの場所に来て、体感一週間が過ぎました。何故体感かというと、時計の様な時刻を示す道具が此処にはないからです。日の出や日の落ち。それを見計らって、大体の時間を把握するしかありませんでした。
――そんなに離れていて、メイドの仕事は大丈夫かって?
そこは私も気になる所でした。しかし、この場所は仙界の一つで、外の空間とは時間軸が異なる様です。一年いて、外界では一週間しか経っていないのだとか。何処かの竜宮城を連想させますね。
私は逆浦島太郎状態になるのでしょうか。
まぁ、実際にここにいるのは一年間だけです。それが、私が仙界の環境に耐えられる時間の限界みたいですね。
この一年間を使って、私は強くなります。具体的にどのくらいか?
エウリュアレさんにも呆れられたのですが、私はお嬢様を護る為に強くなろうとしたのですが、肝心の強さの指標というものがありませんでした。
だから、曖昧に、適当に答えたんです。
「えっと……? 行けるとこまで強くしてください!!」
「じゃあ。未完の魔神ぐらいには強くなるわよね?」
エウリュアレさんが軽い調子で言います。
「えっ!? ……ま、まじですか?」
「まじよ」
メイドに二言無し。冗談かに思えたエウリュアレさんの言葉はどうやら、真剣なものだったらしく、結局前言を撤回できないまま、私の指導方針は未完の魔神並みに強くなるという無茶振りなものへと書き替えられた。
ステンノーさんが用意した壁版に、大々的に私の成長記録や、次の試練など、今後の方針が刻まれている。学校の黒板とステータスボードが合体したかの様な表記だ。
アリス level 42
種族:人間
職業:tsメイド
特技 黒魔法
スキル 女誑し
パッシブ 持続回復
最終目標
未完の魔神より強くなる。『レベル121以上』
次の試練
三ヶ月以内に、メドゥーサから模擬戦で一本を取る。
上記が壁版に刻まれた文字だ。色々ツッコミあるが、とりあえず一つ。
「女誑しって何だよ!! 前世含めて彼女出来た事ねえよ!!」
——思わず、素の口調がでました。
それに答えたのは試練の為、対面しているメドゥーサちゃんです。
「あら? 自覚なかったのかしら? アナタ、結構そっちの気があるわよ。だけど、残忍よねえ。何せ、人間界では同性の恋愛は認められていないでしょう?」
「いや、だから誑してないですってば!! 私はお嬢様一途です! それと、お嬢様が好きなのは推しだからであって、決してその一線を越えるつもりはないですよ?」
「あーはいはい。そうだろうと思ったわ」
——純粋で単純だけど、言葉の裏に打算がある、か。これはエウリュアレお姉様も怒るわけね。
「ん? 何か言いました? メドゥーサちゃん」
「いいえ。何でもないわ。それより、 最初の試練は三ヶ月以内にワタシから一本取る、だったわよね。そうやって、モタモタとしている時間はあるのかしら?」
メドゥーサちゃんの言葉に、私は短く頷く。
レベル『87』のメドゥーサちゃんから一本取るという事は、魔王並みの強さが必要という事になる。
ストーリーをソロでクリア出来るぐらいの強さとレベルが必要になる訳だ。
三ヶ月以内に、それぐらいの強さを身に付けろという事らしい。
三ヶ月もあれば一度ゲームをクリアするぐらいは出来るかも知れない。他のルートを攻略する余裕すらある。
だが、此処は現実だ。ゲーム感覚で強くなれる訳ではないし、こうしている間にも刻は一刻と流れている。
私は両手で自分の頬を叩くと、気を取り直して対面のメドゥーサちゃんに向き直る。
「確かに、無駄な思考を挟んでいる場合では無かったですね。では、メドゥーサちゃん。どうか御指導の程、よろしくお願いします!!」
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