そうだ! 性転換しよう!
「王太子様……ご無事ですか?」
音を聞きつけたメイドさんが駆け付けて、蒼褪めた顔で俺の安否を尋ねる。
「あ、ああ。ごめんね? 大した事じゃないんだ。態々すまないね。あと、俺はもう元王太子だ。王位継承権も剥奪されている。名前もアルシェードと呼び捨てで呼んで貰って構わない。もうそんなに畏まらなくても良いんだ」
「い、いいえ! そんな恐縮です! 私めなど一端の下女が王子様を呼び捨てだなんて……」
「ふぅむ。確かに、いきなり上司に呼び捨てにしろなんて言われても中々呼べないよな」
だけど、俺は大嫌いなこのクソ王子が様付けされてちやほやされるのが気に食わないだけなんだ。今では、自分の身だっていうのにな。
「俺は過度に畏まれるのが嫌いなんだ。本当は君とも友人の様に会話したいのだが、順序というものがあるだろう。じっくりで良いんだ。まずは、俺の名前を呼ぶところから始めてみて欲しい」
「……お、王子様。御変わりになられましたね?」
しまった! いきなり馴れ馴れしすぎて不審がられてしまったか? 確かに、ゲームのアルシェードは少し高慢で、畏まれる事に快楽を得る様な奴ではあったが……
「あっ、ああ。まあな!ははっ、あははっ」
誤魔化すように笑う俺に、メイドの女性はクスッと笑う仕草を見せた後、し、失礼しました! と言って下がってしまった。
……そう言えば、あのメイドってゲームでもちょこんと出て来てたよな? 確か、サリエって名前だった気がするけど。初登場はヒロインが王城を訪れた時の事だ。その時に、王宮の庭で茶会をしているルルカ様の傍で、お茶を淹れるメイドとして、登場していたはず……。
ルルカ様のお茶を淹れられるなんて、何と栄誉なメイドなんだ! とても恨めしいぞ! とか思いながらそのシーンを見ていたので間違いない。
ふと、俺は悪役令嬢についてのとある設定を思い出す。彼女の家であるミッドナイト家では、代々王妃を輩出する家門として有名だ。
彼女の母親の指導の下、王妃教育という名の鬼畜な英才教育が施されていると公式ファンブックに書かれていた。
王妃となる者を育成する訳なので、当然。他の男との接点を可能な限り避けて、これまでの人生を歩んで来たのだという。実の父ですら、接触を控えるくらいには徹底されているのだという。
同性とばかり過ごす環境の中で育って来たルルカ様は、男性に対する免疫が無かった。男を前にすると、上手く喋れないのだ。その所為で、所謂ツンデレキャラを発症してしまい、当たりがきつい女として、内面を見てやらなかった何処かのクソ王子は、結局平民の女に現を抜かして、婚約破棄という愚行を起こしてしまったのだ。ああー胸糞悪い。
くたばっちまえ! そんなクソ王子! まぁ、俺の事なんだけどな!?
婚約者同士だから仕方が無かったとはいえ、関わる男は選ぶべきだ。という事である。
「ん? 待てよ。なら、いっそ俺が女になればいいんじゃないか??」
逆転の発想であった。
ひゃっひゃぁあ!! 俺ってばまじで天才だぜ!!