もう一人の転生者②
「……ステンノーさんの言う、私にしたい話とはこの女性の人が関わってるんですか?」
「ええ。話をしたいのはこの女の目的と、それを防ぐ為の手段の相談よ。アナタのお嬢様とも深く関わる話だから、聞くわよね?」
「……お嬢様を狙っているみたいですもんね。ステンノーさんは知ってるんですよね? この女性が何をしようとしているのか」
「うーん、手段は分かるの。恐らく、彼女達はゲーム通りアナタのお嬢様の遺体を使って魔神を復活させるつもりよ。でも、その目的が分からないの」
「……妙な話ですね。手段が分かって目的が分からないだなんて」
「その通りね。でも、考えてもみなさい。魔神はシナリオ通りに進めば、放っておいてもとある教団が復活させるはずよ。勿論、裏ボスだから条件等は付くけどね。だけど、どうせ復活する魔神なら、復活させる儀式は教団に任せて、シナリオ通りに進むように学園に潜り込んでストーリーを矯正するのが普通じゃない?」
「……確かに、魔神の復活に向けて自ら動くより、魔神が復活する様にシナリオを合わせる方が楽ですもんね……」
「こうしてストーリーが始まる前からダンジョンアイテムを回収しに行ってるのも、ゲームについての知識がある証拠だわ。彼女の意一つで、この世界は最悪の結末を迎えるかも知れないという事」
「なるほど。要は、それを私に阻止して欲しいと……気になったんですが、ステンノーさんとか他の元老院の方々は直接対処に赴かないのですか? 態々私にこんな話を聞かさずとも、直接彼女に問いただせば良いのでは……」
「ダメよ。私達はあくまで世界の観測者という立ち位置なの。アナタ、メドゥーサのレベルを知ってるわね?」
問われた私は首を縦に振って肯定の意を見せます。
「そう、メドゥーサはレベル『87』よ。産まれて二十年と経たない災厄級の魔物でも、魔王と同等以上に強い。なら、既に二千年は生きている私のレベルは幾つだと思う?」
……え、メドゥーサちゃんてまだ二十歳行ってないんですね。案外私と同い年かも?
まぁ、そんな事より。ステンノーさんのレベルですか……
ゲームで登場しなかったし、本当に言葉通り二千年生きているのなら、単純計算でメドゥーサちゃんの百倍は生きているって事ですよね……
「正直……見当も付きません」
「『150』よ。元老院の中で最弱の私でもね。アナタが知ってる未完の魔神が『120』。そして、魔神の完全体はレベル『200』。正真正銘この世界の頂点よ。我らが総括【原初の龍】『ファフニール』様もそのレベルね」
「……!? れ、レベル200!? ゲームでは100がカンストなのに!? ってか、ステンノーさんてそんなに強いんですね……」
「こら、そこで一歩引かないで頂戴。傷つくでしょうが」
「す、すみません……」
確かに、今のは自分がやられたとしたら傷付きますよね……
でも、ステンノーさんなんだか怖いし……仕方ないですよね?
「”ん、ゔゔん”。話を戻すわね」
ステンノーさんが一つ咳払いをして、視線を戻す。
「そんな訳で、私達元老院は強すぎて、そこらで少し散歩するだけでも、裕に世界なんて滅んでしまうでしょう?」
「そ、それ程なんですね……確かに、レベル『85』の魔王がそこらを彷徨いてるだけでも、スタンピードが起きてましたもんね……納得です」
「そういう訳。だから、私達は滅多に外に出られないし、出る際には大幅な弱体化を受けてしまうの。元老院総出で作った契約魔法の効果でね」
「……なんだか、大変ですね。気軽に外にも出れないなんて。あ、だから。今回、私を呼んでここまで連れて来たんですね?」
「ええ、そうよ。少し未来予知の力を使って、アナタが【猛暑の試練】を攻略中に立ち寄るあの場所に、予め魔法陣を仕組んでおいたの。そして、転移先にメドゥーサを向かわせたってわけ」
ふと、メドゥーサちゃんの方に眼を向けると、彼女は退屈したのか、櫛を使って髪を梳いでいる所でした。
「な、何よ?」
と、私の視線を感じたメドゥーサちゃんが訊き返すのを無視して、私は呟きます。
「なんだか、線と線が繋がった気がします。全てはステンノーさんの掌の上って事ですね」