もう一人の転生者①
「確認事項は終えたわ。アナタの覚悟も受け取りました。愛しのお嬢様を助ける為には、身を投げ出す事も厭わない。そんな一途な想いをね」
一頻り笑ったステンノーさんが真面目な表情に戻ってそう切り出しました。
「…………」
「だけど、自己犠牲が美しいのは物語の中だけよ。何故なら、物語なら後先を考えなくても大丈夫だもの。残された者の気持ちを紡げど、まるで理解を放棄しているかのよう」
「……残された者ですか」
「ええ。まぁ、それはいずれ分かるでしょう。自分の気持ちと向き合う時が必ずや来るはずよ。その時に決着を付けなさいな」
「は、はい……?」
「それでね? 本題はここからなのだけど……」
「ええっ!? さっきまでの話って本題じゃなかったんですか!?」
「だから、確認事項だって言ったでしょ。魔神の事も悪役令嬢についての事も、ただ聞いただけじゃない。どうせ、答えは分かってたし」
「……そ、そうですか。あんなヘビーな話で、本題じゃないなんて……」
「ええ、これからの話もかなり重たいものだわ。覚悟は出来たかしら?」
「どうせ、ここでいいえと答えても話するんでしょう?」
「あら、分かってるじゃない。メドゥーサ、あれを持って来て」
ステンノーさんがメドゥーサちゃんにそう促すと、メドゥーサちゃんは洞窟の奥の方に消えてしまい、暫くすると手に水晶玉の様な物を携えて戻ってきた。占いとかでよく見るアレである。
「はい」
と言って、メドゥーサちゃんは水晶玉をステンノーさんに手渡す。
「これを見て頂戴」
ステンノーさんに促されるまま、私は水晶に映る二つの人影を見た。
「これは……!?」
「指定した遠くの景色を映し出す水晶よ。私の予知能力を活かした物だから、私以外には使えない技術ね」
「す、凄いですね……」
「映ってる二人の人間を注視しなさい」
「…… 見覚えのある女性ですね、それとこ、こいつは……! キリカナン!!」
「何やら悪だくみをしている様ね。その目的は、アナタのお嬢様の身柄だそうよ」
「お、お嬢様の!? 音は……聞き取れませんね」
「映せるだけよ。この女の事、アナタは知っているはずよ。思い出せないかしら?」
「……うーん、絶対に知っているはずなんですけど……なんだか記憶に靄が掛かっている様で、なんとも」
「やはりね。ワタクシもそうなの。この子の姿がまるで、霧に覆われた様にぼやけてて見えないわ。だけど、分かっている情報もあるわ。彼女も、アナタと同じ転生者よ」
「えっ!? こ、この子が、私と同じ!?」
「間違いないわ。元老院の総意よ。そして、彼女はこの世界に害を為す不穏分子として、認められた。ゲームの知識も持っているみたいだから、油断できないわ。もしかしたら、この先アナタの最大の障害となるかも知れないわね」
「こ、この子が……私の障害……」
――怒るべきなのでしょうか? それとも、恨むべき?
まだ会った事も無いから、何とも言えないですね。
「見て。動き出したわ。どうやら二人で、ダンジョンを攻略しているみたいね。あ、ほら。何か手に取ったわ。アナタも良く知っている物では無くて?」
「……!? み、水呼びの笛!? Bランクダンジョン【水龍の試練】のクリアアイテムが、彼女達の手に……」
「どうやら、アナタの攻略しようとしたダンジョンのアイテムを回収して回っていたのは、彼女達の様ね」
「……そ、そんな。それじゃ本当に……」
「ええ。この時点で、アナタの障害となっているわ。さて、アナタはこの事態に対してどうするのかしらね?」