お嬢様を救う方法②
「世の中、聞かなくて良い事もあるんですね」
「あら、酷いじゃない。折角教えてあげたのに第一声がそれだなんて」
ステンノーさんが捻くれた様に言う。
「だって! なんだか、世界の隠された真実を知っちゃったみたいな感じじゃないですか!? ゲームでもそんな設定無かったし! 絶対この先事あるごとに脅されるやつでしょ!」
「そんなあくどい事しないわよ。アリスちゃん、ワタクシの事なんて思ってるの」
「……怖いひと……魔物? です」
「それは間違いないわね」
「ひえゃっ!! そ、そこは否定してくださいよぅ」
「嘘言ってもアナタ信じないでしょうに……」
「そ、それで。世界の危機って何なんです?」
「あら、そうだったわ。その話の途中だったわね。思い出させてくれてありがとう」
「……や、やっぱり聞かなかった事にして貰っていいですか? 私、この先の話聞きたく無くなりました」
「だめよ。ちゃんと最後まで聞いて頂戴。アナタの大好きな悪役令嬢さんとも大きく関係のある話よ」
「……!? 聞きます聞きます!! なんでも話してください……!!」
「アリス。アナタ、単純ってよく言われないかしら……」
ここで、黙り込んでいたメドゥーサちゃんがツッコミを入れる。
その意味がよく分からないので、取り敢えず無視しました。
だって、どうせ絶対悪口ですもん。
「魔神の事は知ってるわね?」
「……えっ? あ、はい。裏ボスですよね?」
「……裏ボス、ね。アナタの世界ではそういう認識だったわね。まぁ、あながち間違いでは無いわ」
先も、ゲームについて言及した時に何も不自然な反応が無かった事もそうだが、『アナタの世界では』と強調して言う辺り、ステンノーさんはこの世界が『ときめき☆マジカルぱーんち』の世界である事を知っている様に思える。
しかし、ステンノーさんの言わんとしている事が分からないし、予測も出来ない私は首を傾げるだけでした。
「……??」
「言い方の問題よ。裏ボスって、表ボスを倒した後に出現する敵の事でしょ? それじゃ、まるで表ボスを倒してからじゃないと、出現しないみたいじゃない」
「えっ? そうじゃないんですか? だって、魔神って魔王と同一人物で、魔王の上位互換みたいなものじゃないんです?」
「うーん。それが、少し違うのよ。確かに同一人格の存在ではあるわ。だけど、同一人物とまでは行かないの」
「……? 難しいですね。つまりはどういう事です?」
「……魔王と魔神は同時に顕在出来るという事よ」
――――は?
「……す、すみません。耳が遠くなってしまったみたいで……もう一度聞きたくもないので話さなくて大丈夫ですよ」
「アナタ……いい加減現実向きなさいよ……」
「……魔王と魔神が同時に存在すると、どうなるんですか?」
「均衡が崩れて世界が崩壊を始めるわね。そうなれば、この世界は終わるわ」
「……ですよね~。そうだと思いました。はぁ」
「アナタにずっと確認しておきたかった事があるの」
そう言って、鎮痛な表情を浮かべて私を見つめるステンノーさん。
――嫌な予感がしますね。
私は胸の鼓動が急速に早まるのを感じました。
「……な、何ですか?」
私が訊き返すと、やはり言葉にするのを躊躇っているのか、多分苦虫を噛み潰した顔のステンノーさん。
それを見て、私は一言「覚悟はできています」とだけ伝えた。
すると、ステンノーさんは息を吞む様に瞑目した後、重々しくその口を開いた。
「……アナタの覚悟。しかと受け取ったわ。では、【愛執の転生者よ】。アナタに問います。貴方の推しである悪役令嬢――ルルカリアを、こうして女人と化してまで貴女は、どうやって救うつもりだったのですか」