お嬢様を救う方法①
「さて」
と、ステンノーさんは威厳のある声で言って、私の方を向き直しました。
「今日はアリスちゃんに話があって、メドゥーサに連れて来て貰ったのよ」
「え? お話があったのって、メドゥーサさんじゃないんですね」
「そう、ね。アリスちゃんを呼んだのは実質的にはワタクシだけれど、我先にと一番にアリスちゃんに会いたがっていたのは、メドゥーサなのよ?」
「へっ? ち、ちょっとステンノー姉! それは言わないお約束ですわよ!?」
「えっ? そうなんですか?」
メドゥーサと私の声が同時に紡がれ、重なった。
しかし、ステンノーさんは両方の声を的確に聞き取ったようです。
「ふふっ。息もピッタリですわね? 随分と仲良くなった様じゃない?」
「……確かに、会ったばっかりですが、その割にはメドゥーサさんの事は信頼していますよ!!」
「……ワタシの背中でピーしたぐらいですものね……」
「――ギクッ!! ……そ、それは本当にごめんなさいでした」
ステンノーさんの言葉に、媚を売るチャンスだと感じた私が、メドゥーサさんへのポイントを稼ごうとする。それに対し、皮肉で返すメドゥーサちゃん。
その様子をステンノーさんは微笑ましそうに眺めていた。
エウリュアレさんは、料理を作る為に厨房の方にいます。
「それでね、今日アリスちゃんを此処に呼んだ理由なのだけど……」
そう言って意味深気に私の方に選別する様な視線を向けるステンノーさん。
沈黙が続く。
「…………」
「…………」
「……………………な、なんですか?」
「アリスちゃんを臨時の非常食にするためよ」
「ぷぇっ!?」
「ちょっと、お姉さま……」
「ふふふふふ……アリスちゃんの反応が一々可愛いものだから、ついつい虐めたくなっちゃうの」
どうやらツボに入った様で、頻りに笑うステンノーさん。
「も、もうー。勘弁してくださいよ……本当に怖いんですよ!」
「ふふふ、ごめんなさいね。真面目な話をする前に、気分を紛らわせておこうと思って」
そう言って、ステンノーさんはまた荘厳な雰囲気に戻る。
「……真面目な話ですか?」
一体どんな話をするというのか。
「ええ。この世界の命運に関するとってもとっても大事な話を、ね」
そこでステンノーは一度、神妙に眼を細めた。
「アリスちゃん。アナタ、転生者でしょ?」
瞬間。私は呼吸を忘れた。
――圧迫された重苦しい雰囲気が流れ、緊張が私を圧し潰す。
「…………えっ」
絞り出すようにして出た第一声は、吐息にも似たただの漏声であった。
「ああ、ごめんね。言い方が悪かったわ。私は、アナタがそうであると知っている。
――何故なら、私には未来を見通す予知能力があるから」
爆弾発言であった。脳が理解を拒む。だけど、ステンノーは畳みかける様にして言葉を重ねた。
「まぁ、正確にはアナタが思うような便利な能力じゃ無いわ。見通せるのは、この世界に生じた『特異』だけよ。この世界の危機を事前に察知出来るってわけ。その能力でね、アナタを見て来たの。転生してから今日までの事全てね」
「……えっと、それでは世界の異分子である私を排除しようと……?」
「ふふふ。おマメさんね。大丈夫だわ。アナタは確かにこの世界の異分子であり、特異点の発生になり得る存在だけれど、今のところアナタの行動を見る限り、この世界に害を加える存在では無い。というのが、私を含めた【元老院】達の総意よ」
「そ、その【元老院】というのは?」
「分かり易く言うと、災厄級の魔物達で構成された四体の均衡維持保安隊の様なものね」
「……全然、分かり易くないんですが。その構成員には一体他にどんな方々が?」
「あら、そんな事を聞いてしまうの? 強欲ね。けど、アリスちゃんにだったら、教えてあげてもいいわよ。聞いて驚かないでね? 先ずは、このワタクシ。
【均衡を保つ者】――ゴルゴーン姉妹が長女、『ステンノ』」
次に、と言って【均衡を保つ者】は続ける。
【導者】――神聖なる、『フェンリル』
【破壊者】――鏡の国を噛み砕く者、『ジャバウォック』
そして、元老院の纏め役にして総指揮者。
【終焉】――原初の龍、『ファフニール』
「以上の四名よ」
と、短く言ってステンノはどや顔する様に胸を張った。
……うん。もうスケールがデカすぎて何が何だか分からないけど、一つだけ。
「……何ですかその世紀末」
――神話級の怪物しかいねえじゃねえか!!!
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