ルルカ様成分が足りない!
「困ったものだ」
前世で住んでた部屋三室分の広さがある自分の部屋で、俺は一人ごちる。俺は今、早急に解決しなければならない問題に瀕していた。
「ルルカ様のご尊顔を拝みたい!!」
そう。抑えていたオタクの性が、大暴走したのである。以前までは、部屋に悪役令嬢であるルルカ様のフィギュアやクッションといったオタク全開フルパワー!! なコレクションがあって、それを眺めればいつでもルルカ様のご尊顔を拝める事が出来ていたのだ。パソコンのホーム画面も、常にルルカ様にしていた。デスクを開けば、いつ何時でも、ルルカ様成分(オタク語)を搾取できていたのだ。リアリティを求めたければ、ゲーム画面を開いて、少しオープニングを進めれば、その御尊顔を崇める事が出来る。
それが、今はどうだ? こんな、無駄に広いだけの部屋に何がある? 俺の集めたコレクションズは何処へ消えた!?
神よ何故だ!! 何故俺だけを転生させた!愛しのルルカ様コレクションを返しやがれ!
再度言おう。これは死活問題である。空気中に酸素が無いようなものなのである。このままでは、呼吸が出来ないのだ。
そんな訳で、俺は一つ大きな決断に迫られた。
「悪役令嬢に会いに行こう!」
当然、オタクは実物を拝まんとする。カメラ等の複写技術が無いこの世界では、当人の姿を誇示できるのは、似顔絵だけだった。残念ながら、俺に絵心は無い。当然、似顔絵を下さいと頼める立場でもない。では、残された俺の選択肢は一つ。
「正面から凸れば、元婚約者とて無下には出来ないだろう!」
――そう思ってた時期が俺にもありました。
「帰れクソ王子!! 此処はてめえみたいな汚物が立ち入りできる場所じゃねえ!」
門番に門前払いされた。その手には、国璽の押された『第一王子撃退令』と書かれた紙が握られている。
俺は囚われの姫に会える事すら無く、撤退を余儀なくされた。
一部始終を見ていた馬車の運転手と、気不味い雰囲気が流れる。後に聴くに、俺の顔はアンデッドが般若の顔を浮かべるが如き形相であったらしく、俺を見た王宮の衛兵達の中には、恐怖の余り失禁してしまったものもいたようだ。
再び実家の元王太子の部屋のベッドに就いた俺は、みっともなくベッドの上に裸足で登りながら、思うままに地団駄を踏んだ。
「くそったれ! 誰だよ国璽なんか押しやがったクソ親父は!! ああーまじ許せねえ。叛乱起こしてやろうか? ああん?」
あ、やべ。揺らし過ぎてガラスを割っちまった。
「お、王太子様!? 何かお気に召さない事でもございましたか?」
メイド服を着た女性が、扉を突き破る勢いで部屋に入ってきた。




