表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/125

【猛暑の試練】攻略①

「ぜぇ、はぁはぁ、つ、疲れたぁ」


 一時間は走りっぱなしだったよ。


 全速力で。


「リレーじゃねえんだよ」


 なんて軽く愚痴を吐露した後、目の前に広がる迷宮へ足を踏み入れた。

 

 現在時刻は大体午前の3時。メイドの仕事が始まるのが午前6時。


 帰宅に一時間かかる訳なので、二時間でダンジョンを攻略しないと行けなかった。


 ——ダンジョン攻略RTAの始まりだ。



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 駆ける。剣を薙ぐ。


 暗闇の中、襲いかかるモンスターを裂いて裂いて、罠は着実に避けながら、また走る。


 「あ……あっちい!!」


 流石は猛暑の名が付くダンジョン。


 ゲームと同じく、下を見ればマグマが流れているこのダンジョン。一歩踏み違えばそのままマグマダイブで天国行きだ。


 ……いや、正しくは煉獄か。


 ゲームではマグマに向かって歩を進めても崖に突き当たる所で止まる。


 マグマダイブシーンなんか用意されていないのだ。


 しかし、ここは現実である。そんな安全ストップは付いてないし、何よりもゲームの画面と違うのは、熱を直に感じる事だ。


 ゲーム画面では「熱い」などと言ってる攻略対象達を見て鼻で笑っていたが、まさかそれを自分が経験するとは夢にも思わなかったよ。


 そんな事を考えながらも暗闇を着実に切り進んでいく。


 モンスターが襲いかかってくる。コウモリが視界を塞ぐ。


 そしてまた罠を薙いでいく。


 飛んで、走って、舞って。


 その繰り返し。


 だが、


「やべっ、全然間に合わない!」


 それは焦りだった。それが失態を誘った。


 ——カチッ。その音と共に、罠が作動する。


 (なっ! なんの罠だ!?)


 何が、何処から、どの様に。


 これまでの罠は、大体が飛び道具が飛んできたり、落石といった定番のものだった。


 だから、踏んだとしても上左右を警戒しておけば大丈夫だった。


 左右を警戒する。同時に上を警戒した。


 しかし。


 (何も起きない?)


 ——誤作動か? 罠が発動しなかった?


 しかし、嫌な予感だけは止まない。


 ……まさかっ!?


 そう思った時には遅かった。


 罠は発動していた。


 ……下だ。


「魔法陣!? ま、まずい!!」


 その瞬間、私の世界は白に染まる。




 そして、その次の瞬間には、色彩が戻ってきた。しかし、


 ——知らない場所だ。


 見るだけでも暑くなって身を投げ出したくなるマグマの風景は、深い深い森林の中の風景に変わっていました。


「まさか、転移陣を踏んでしまったのか!? あああああああ、最悪だァ!!」


 もう、口調が完全に前の()のものになっているのは、感情が昂っている証拠です。


 ……やばいやばいやばいやばいやばい



 猛烈にやばい!!


 

「帰れねえよ!!」


 思考が止まる。焦りだけが加速していく。


「どどどどどどどどどうするんだよ!! お嬢様にどうやって言い訳すれば良いんだ!? いや、それ以前にどうやって帰る!? ここは何処だ!!」


 地図を見るにもスマホは無いし、看板を探すにもここは明らかに森林の奥地である。都合良く案内板があるはずが無い。


 ——現在地が掴めない、分からない。


 帰り道はどっち? どっちに行けば良い?


 完全に詰んでいた。

 


 絶望的なのは現在の時刻だ。さっきまでダンジョン内にいたから正確な時間はわからないが、感覚的には午前の4時を少し超えたぐらい。


 この季節で、日が登るにはまだ早い時間帯だ。しかし、此処はどうか?


 もう既に太陽は登っている——


「とかの次元じゃねえ!? 真昼間じゃねえか!!」


 もう一度嘆く。


「詰んだわ」


 さっきまでの時間が午前4時なら、此処は体感午後4時だ。


 つまり……さっきまでの現在地と真逆の地図上の位置にいるんだ!


 さっきまで居たのが日本だとすると、此処はブラジルである。


 帰るのに年単位の時間が掛かるかもしれない。そもそも大陸が違うだろうから、言語が通じないかも知れない。


 嗚呼……嘆きを漏らして膝をつく。


 涙が出そうだった。脳内では終わった——という感情がループ再生している。

 

「ひっく……うっ、うっ、お嬢様、ごめんなざいいぃ————!!」


 半分嘘泣きの号哭を挙げていると、近くから生体反応が感知に引っ掛かった。


 かなりの大物だ。本能が危険だと警鐘をあげている。


 ——ガサガサ、と草むらを掻き分けて現れたのは、大人10人分の高さはある巨大な蛇であった。だが奇怪なのは、顔と思われる位置にあるその顔が、蛇のものでは無く人のものであった事だ。


 身体は蛇、顔だけ人間。


 その魔物の名前を、()は知っている。


 元の世界でも神話の中で畏れられていた伝説上の怪物モンスター。その名を、




 ——【メドゥーサ】



 ソレは、ひしゃぁ、と唸りを挙げて、まるで宝石そのものの様な真紅の瞳を私の方へと向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ