親父に物申す②
「はっはっは〜!!これで俺は自由だぜ!!」
俺は自室で盛大に浮かれていた。
「まさか、あんな上手く行くなんてな。親父についてのゲーム知識があって良かったぜ」
結局、王との謁見は俺の望み通り、嫡廃とまでは行かなくても、王位継承権は剥奪される形で締め括られた。
「ふへへっ。計算通りだぜ馬鹿野郎」
親父は荘厳な物言いに反して、割と情愛的なのだ。これは、攻略本にしか書かれていない極秘設定である。出来れば、実の息子を手に掛けたくない親父は、俺の嫡廃してくれという最悪の提案に対し、その一歩手前の王位継承権の剥奪という処罰で妥協する選択を取った。
親父の心理的には嫡廃を望める覚悟があるのなら、王位継承権を剥奪する程度で、俺が乱心する事は無いだろう。と考えたのだろう。
俺にとって一番の目的は、端から王位継承権の剥奪だったので理想の結果なのだが、普通王族にとって、王位継承権の剥奪とは死刑宣告にも似た境遇だ。
自分に尽くしてくれた貴族の派閥を全て裏切る事となる。その意味の重さは、あの場にいる全員の知るところであった。よって、満場一致で俺の処罰は王位継承権の剥奪という事で、その場は丸く収められたのだ。
そうそう。今更だが、俺が昨日あの場に赴いたのは、俺の処分をどうするかの会議――要は、弾劾裁判を受ける為だった。
それを利用して、俺は自ら王位継承権を剥奪されるべく一芝居打ったって訳さ。なんでそんな事をするかって?
そりゃ勿論。王になりたく無いからだよ。せっかく転生したんだぜ? まぁ、このクソ王子の体にだけどな!? それでも、自由に生きていたいだろ? ダンジョンや冒険者にも興味あるし、王族の身分じゃ自由に行き来も出来やしない。
そんな訳で、理想としては王族の身分まで剥奪される嫡廃処分を受けるのが良かったのだが……ぶっちゃけそこに関してはどっちでも良かった。
嫡廃されれば、王族の身では無くなった俺は自由に生を謳歌出来る。だが、そうなれば推しの悪役令嬢に会える建前が無くなってしまうのだ。王族でも、ましてや貴族でも無い俺が、どうやって彼女に会うってんだ。
だが、実際には俺は嫡廃される事はなかった。つまり、俺はまだ王族の身ではあるのだ。上流貴族である。それなら、もう一度悪役令嬢に会える口実も作れるかも知れないだろう?
第一目標は、あくまで推しをこの肉眼に一秒でも長く焼き付ける事である。冒険者や、ダンジョン攻略活動は二の次なのだ。
それにしても。と、思考を区切る。
「ルルカ様。可愛いかったな」
それは、俺が個人的に呼んでいる悪役令嬢の愛称であった。まぁ、俺の他にもネットでちらほら呼んでるやつは見かけたが。それを見るたびに思わず、殺意を抱いてしまいそうになったものだ。同担拒否ってやつだな。
キャラクターとしての魅力があったかは兎も角、神絵師が描いた悪役令嬢 ルルカリアはビジュアル抜群だったのだ。俺を含めて、陰ながらのファンが多かったのである。
「しかし……この展開は知らないぞ?」
ふと、昨日の夢か現実か曖昧な光景を思い出す。俺は、悪役令嬢自らが、このクソ王子に対して婚約破棄を申し出たルートを見た事がない。ゲームでそんなシーンは無かったはずだ。
完全に、俺の知る『ときめき☆マジカルぱーんち』のストーリーには存在しないシーンだった。
「うーん、分からん!! 後の事はまた明日にでも考えよう。今日はもう寝るぜ!」
そう思い、俺は自室の明かりを消してベッドに飛び込んだ。