私、心配したんだからね!!
14時の分です! 遅れてしまいすみません
気絶したキリカナンはバルトロ侯爵家の元へ身柄を返還し、決闘の勝利条件として提案を呑んでくれるのと、後日謝罪も兼ねて侯爵自ら伺いに来るとの事でした。
侯爵からは嫌味な態度は見られませんでしたし、誠意を以て息子の不届きを謝罪している様子でした。律義な人で良かったです。
しかし、問題はその前と後に起こりました。決闘が終わった直後にお嬢様が目にも留まらぬ勢いで抱き着いて来ました。その目頭には若干涙が浮かんでおり、よっぽど心配させてしまっていた事が覗えました。
「アリスのばか! 私、心配したんだからね!!」
と口調も変わり、いかにもツンデレキャラな言葉を掛けられますが、私は上手い事良い言葉を掛けられず、精々その背中を揺するのがやっとでした。
「もう二度とこんな危ない真似はしないで! 命を賭けるのなんて専らよ」
「ええ。すみませんでしたお嬢様」
確かに勝てる確信があったとはいえ、負けたら命を差し出す――なんて直接的には言ってないですがキリカナンが私に勝った時の条件として提案した時には承諾しましたからね……
浅薄な発言であったと深く反省します。ですが、私如きにどうしてお嬢様はこんなにも心配してくれていたのでしょう?
……なんて、少し期待してしまいましたが専属のメイドが居なくなると色々と困るだけですよね。そうに違いないです。決して他意があるなんて邪推してはいけませんよ私。
「それと、今夜は夕餉の後、私の部屋に来る事。良いわね?」
「え?」
「返事は!?」
「あ、はい。承知しました……?」
(え? え? なんで部屋に呼ばれたんでしょう? まさか怒られるとか? 専属のメイドから外される!? なんならメイド自体を辞めさせられるとか? お前は必要ないと屋敷から追放されたり!?)
「な、なんでそんなこの世の終わりみたいな顔をしてるのよ……と、とにかく! 今日は私の部屋に来て頂戴。分かったわね? 必ずよ? 絶対だからね! 忘れないでね!」
と念押してお嬢様は慌てる様にその場から去りました。
――そんな訳で。夕餉の時間が過ぎ、軽く湯浴みをした後、約束通りお嬢様の部屋へと訪れていました。
――コンコン。
「お嬢様、入ってもよろしいですか?」
「ええ。待ってたわ。入って頂戴」
お嬢様に促されるまま、私は扉を開けます。
中にいらしたのは荘厳な雰囲気の……かと思いきやネグリジェに身を包んだ儚げで無防備に見えるお嬢様でした。正直予想していた雰囲気と違っていたので、一瞬立ち竦む私ですが、直ぐに立ち直って掛ける言葉を模索します。
……が、なんて言えばいいのか言葉が見つかりません。私の頭の中はパニックのままでした。
「な、何よ。固まっちゃって、何か言いなさいよ」
そう言うお嬢様は、もじもじと身を捩らせており、恥ずかし気に俯くその顔は薔薇が咲いたかの様に朱く染まっていました。その様子が、余計私の頭に混沌を植え付けます。
(えっえっ? どういう事? 怒るんじゃないの? そのつもりで来たのに……これではまるで)
一夜を共にする前の女性のようでは無いか――
……ヴっ、こほん、ごほん。
過呼吸になりかけて、少し咽ました。お嬢様が、だ、大丈夫!? と慌てて訊ねて来ますが軽く手の平を差し出して、大丈夫です。と伝えると、お嬢様は胸に手を当て、安堵したようにはぁ、と息を吐きました。
それに合わせて、私も瞑目し、軽く深呼吸をしました。
すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。
これで漸く、落ち着きました。
「ほ、ほんとに大丈夫かしら?」
「え、ええ。はい、落ち着きました。御心配をお掛けして申し訳ございません」
「ほ、ほんとよもう!」
とお嬢様は項垂れます。
――冷静に考えれば、もう夜中の10時。軽く消灯時間を超えてますし、寝間着姿でも可笑しくはないですよね。
きっと、お嬢様に他意は無いんです。私を呼んだのは、やはり叱り付ける為で――
「そ、それでね? アリス。今日貴女を呼んだ理由なんだけど……き、今日は私と一緒に寝て欲しいの!!」
「――えっ?」
我ながら、なんとも間抜けな声を漏らしました。
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