メイド、クソメガネをボコす②
「これより、バルトロ侯爵家が次男。キリカナン・バルトロ氏とメイドのアリスによる決闘を執り行う。双方、準備は出来ましたか?」
決闘の仲介役兼見届け役のセバスチャンさんが厳粛に言います。
「ふっ。やはり『姓』無しか。ゴミ平民風情が」
「そちらは、折角『姓』を頂いたというのに、なんとも語呂が悪いお名前ですね? キリカナン・バルトr……おっとすみません。呼び辛すぎて噛んでしまいました」
「……キサマぁッ! 馬鹿にするのも大概にしろよ!」
「ふむ。既にお互い闘志が……いえ、殺気が漲っていらっしゃる。では再度確認を。決闘の勝敗は、片が戦闘不能と見なされた場合、または片が降参を申し出た場合に決着と致します。そして、あくまでこの場の殺生は禁止と致します。異論は御座いますかな?」
睨み合い、煽り合う二人を見たセバスチャンさんが勝敗条件の見直しを計ります。それに異を唱えたのはキリカナンでした。
「はあっ? そんなの聞いてないぞ! 俺は貴族でコイツは平民だぞ! コイツは俺を害せないが、おれ……私がコイツを殺そうが生かそうが自由だろう?」
「ええ。本来はそうです。しかし、そちらのメイドは只のメイドに非ず。公爵家令嬢の専属メイドであります。普通の平民とは同じ扱いが出来ないのですよ」
飄々と、セバスチャンさんは言いました。
「それに」
とセバスチャンさんは言葉を重ねます。
「これはお嬢様きってのご要望です。聞き入れて下さりますかな?」
これには私も言葉を飲みました。あれほど大丈夫だと申しましたのに、お嬢様に信用されていない様でショックだったのです。
当のお嬢様は祈る様に両手を重ね、静かにこちらを見守っていました。
「ちっ。無能なお嬢様は権力の乱用しか能がない訳か。愛しの婚約者を捨て、ただのメイド風情に現を抜かすとは、見兼ねたものだ」
「いい加減にしてください。それ以上のお嬢様への狼藉は許しませんよ。セバスチャンさん、開始の合図を」
「承知致しました。それでは双方、決闘を始めてください」
そういってセバスチャンさんはお嬢様の方へと下がります。
開始の合図と同時に、先に動いたのはキリカナンの方でした。
口早に詠唱を唱え、こちらに向けて構えています。
彼の詠唱した魔法は雷魔法の『雷撃』。
それに対し、私は後から魔法を唱え始めました。
「ふん! 馬鹿め。俺の魔法が放たれるのが先だ!」
罵倒と共に、彼はソレを放ちました。
――ビリビリ。
と、静電気の音が空気を裂き、こちらに向かってきます。
ソレを、私は一度魔法の詠唱を停止し、無詠唱で『吸収』の魔法を使ってしゅるっ、と吸収しました。これは、主人公がアルシェードでは無い他のルートを攻略中に一定の選択肢をとったり条件を達成すると解放される、アルシェード闇落ちルートで黒魔法に手を染めたアルシェードが作中で使った魔法です。メイドになる前にしっかりと習得して来ました。
強力な魔法ですし、アルシェードが闇落ちして習得した魔法というぐらいですから、難しいのかと思ってましたが、やってみれば簡単でした。アルシェードの身体だから適性が高かったのでしょう。
キリカナンは一瞬何が起きたのか分からない様で、眼球をひん剥いて呆然と立ち尽くしています。『吸収』を使う前に、詠唱している様子を見せていたので、彼は私が無詠唱で魔法を使った事に気が付いていないでしょう。
それを見て、私は先程唱えていた魔法の詠唱を再開します。
しかし、彼は即座に第二手を打ちました。今度は土魔法の『地震動』です。その効力で、私の周辺の地面が揺れ始め、私の右足と左足の付け根の間の地面が真っ二つに裂傷し、割れていきました。ここに堕ちれば真っ逆さま、奈落の底。
そこで私は空かさず『浮遊』の魔法を使いました。
勿論、無詠唱です。
結果。彼の魔法は私の足元の地面を割っただけの無駄打ちとなったのです。
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